※倉間がキャラ崩壊気味




南沢さんとお泊まりデートをすることになった。
場所は俺の家で、久々に訪ねて来た南沢さんの手には沢山の荷物が提げられている。着替えにしても、ちょっと一晩の量じゃない。

「南沢さん…あんた旅にでも出るつもりですか」
「は?」
「あっもしくは永遠に俺の家に居てくれると、そういう…」
「馬鹿だろ」

バシッ、やっぱり顔にぶち当たった鞄は辞書でも入ってんじゃねえかってぐらいの痛みだ。マジいってえ、冗談なのに。…半分。

お邪魔します。南沢さんは丁寧に頭を下げていたけど、生憎今日は誰も居ない。元々は旅行に引っ張られる所だったのを、この予定に変えてもらったのだ。
お陰で南沢さんと二人きりだなんて、とても美味しいシチュエーションを与えられている。あんな事やこんな事が思考を過ぎるけど、それを言ってしまったらきっとこの人はまたクッソ重い鞄をぶつけてくるだろうから、静かに口を閉ざしておこう。

「南沢さん、飲み物何が良いっすか?」
「んー…甘いもん」
「うへぇ、流石甘党」

冷蔵庫からイチゴ牛乳(勿論普段この家には無い。南沢さんの為に昨日買ってきた。)を取り出し、パックそのままで渡した。
受け取る時にありがとう一つ言わず、南沢さんは言い訳を始める。

「違うって、今から勉強するから糖分いんの」
「はぁあ?彼氏の家来てわざわざ勉強っすか!」

嘘かどうか分かりづらいけど、これ、本気も入ってるぞ。南沢さんが甘党なのは周知の事実だけど、それ以外にも好きなものがあるのだ。ジィーと鞄のファスナーを開けて、出て来たのは色とりどりの教科書だった。ああやっぱり、俺は目眩がした。
南沢さんに抱きつきながら、馬鹿だの内申オタクだの文句を言うけどハイハイと流されて挙げ句頭まで撫でられる。嬉しくねえよこんなこと。バシンッと手を叩く音が響いて、けれど弾かれた当人はニヤニヤと笑っていた。

「後で構ってやるから」

オトナな対応だった。ムカつく、勉強なら自分家で散々してんじゃん。
俺はそれで完全にふてくされてしまって、そっぽを向きながらチャンネルを握った。
色んな局を回すけど、とてもこのイライラを解消するようなものはやっていない。そこで頭を働かせ、あることを思い出した。確か、まだ観ていなかったDVDがあったはず。ゆっくり炬燵から立ち上がる。
南沢さんの傍を離れてそういう物が仕舞ってある場所へ行けば、案の定袋に入ったままのDVDを発見。時間がなかなか取れなくて放置していたその内容は、ホラー映画だった。
家族の前でビビるのも馬鹿にされるだろうと躊躇っていたけど、今なら関係ない。何たってそこで教科書と睨めっこしてる人は、この手の物が俺以上に苦手だからだ。
今度は俺があくどく笑う番。さっきの仕返しも込めて、何食わぬ顔でそれをセットした。

「映画観んの?」

お決まりの所注意が流れ出したことで、やっと南沢さんが顔を上げる。眼鏡を装着して完全勉強モードのこの人に、はい、と明るく返した。
俺の態度の豹変ぶりに首を傾げていたけれど、それを突っ込む間もなく映画はスタートしてしまった。

詳しく中身を言えば、得体の知れない殺人鬼が一人二人と犠牲者を出していく…っていうよくあるパターンで、日本の怖さではないし、好きな人から言えばつまらないと一蹴されそうなものだった。
怖がっていた俺も退屈するぐらいにガッカリな内容。なんだ早く観てしまえば良かったなあなんて思い始めたその時。

「…っ、ひ…ッ」

─作戦成功でありますッッ!!
内心ガッツポーズをしながらこの映画最大の見所を盗み見た。
声を漏らした通り、南沢さんは勉強なんてそっちのけで画面にかじり付いている。その目にはいっぱいに涙が溜まっていた。
怖い怖いっていう人ほど、見せられたら見ちゃうんだよなー。すぅっ、と俺は手を忍ばせて、吹き出しそうになるのを何とか堪えながら、南沢さんの逆側の肩に軽く触れた。

「─ヒィッ!?」

ぶわっ、遂に決壊した涙は、ボロボロ頬を伝った。瞬間俺も笑い転げてしまう。だって想像以上に跳ね上がるもんだから。
南沢さんは眉を寄せつつその様子を眺めた後、ゆっくり怒りを噴き出させていった。とうとう俺の策略に気付いたらしい。

「倉間、お前〜〜…っ!」
「いやー可愛いっす、南沢さん」
「ふざけんなよ、もう止めろ!」

南沢さんとは違う涙を流していたら、その手がチャンネルに伸びた。いやいやまだ早い、と寸での所で捉える。ぐいとそのまま引っ張れば、体は綺麗に俺に飛び込み収まった。

「っおい…!」
「ここまで観たら気になるでしょ?ほら見て今あの女の人の首が」
「うわあ馬鹿!!聞こえない聞こえない聞こえない!」

縋るものがないから仕方なく。そう体で言いながら、南沢さんは俺の背に手を回す。しがみつきながら泣くなんて、こんな可愛いこと出来たんですねあんた。気を抜けば頬が緩みっぱなしになってしまうから、映画をチラチラ見ることで耐えることにした。
仕返しなんて言っといて、結局この人に骨抜きになってるのは誰だよ、全く。

いい加減テレビを消してやって、すいませんと頭を撫でる。うゔ〜と動物みたいに唸るばかりで、簡単には許してくれそうもなかった。
でも体は正直と言うか、落ち着くまで離してくれなかったし、落ち着いてからも服の袖を掴んだままだったし。
トイレへ行くのにもいちいち付いてくるんだからだいぶ重症だよな、と犯人のくせに笑う。

「今日一緒に寝ろよ」
「? 勿論」
「違うそうじゃなくて」

ベッドの横に布団を敷いていたところ、南沢さんが未だに赤い目で訴えてきた。首を横に振った南沢さんの意図が深読みしても良いものか図りかねていると、まるで今から告白でもするんじゃないかってぐらい真っ赤な顔が俺を見上げた。

「ベッドに、一緒に寝ろ」

怖いんだよ誰かさんのせいで。
まさかと思っていた南沢さんのセリフに、思わずしゃがみ込む。今度はもっと怖いの借りてこよう。








end....


Miss Aかがり様より頂きました!
5000hitフリリク企画にて、リクエストさせて頂いた物なのですが、そうあの時は全くの初対面だったんですよね……(笑)
どうしようリクしたいだけど初対面だし失礼じゃないか云々をかなりの日数悩んだ記憶があります。
〆切間近になって、うああああって叫びながら勇気を出してリクエストしたんですよ(笑)
ほんと可愛い倉南ですよね! 何なんですかねこの可愛らしさは!
読んだ瞬間禿げ悶えました、間違いなく家宝です、はい。
どやあこんな可愛い倉南貰っちゃったぜどやあ!←
はい、すみませんでした、嬉しさのあまりちぃとばかしテンションが高いのです、はい。












2011.12.08-  

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