ただ俺は彼といたいだけだった。
 一緒に起きて、おはようと言って、一緒にご飯を食べて、一緒に過ごして、おやすみと言って、一緒に寝る。そんな風に過ごしたかっただけなのだ。
 だけどそんな風に彼に甘えきっている自分に気づき、嫌気が差した。
 だから彼に告げたのだ、終わりにしようと。
 誰よりも愛している彼を傷つけたのは明白だ。今でもあの泣きそうな顔を思い出す度胸が締め付けられる。
 だがそこまでしてでも、俺は彼に甘えたくはなかった。甘える人間で在りたくなかった。
 そうして彼との甘い関係を終わらせて何時もの日常がやってくる。
 そうなのだ。文字通り、日常だった。それは全く彼と別れる以前と何も変わらなかったのだ。否、一つ変わったとすれば、彼の俺に対する態度だろうか。そんなもの当然と言えば当然だ。
 つまり結局のところ俺は彼の傍を離れるなんて出来なかったのだ。口ではもう終わったことと言いながら、自分が離れた後、この部屋に自分でない、彼との親密な関係を持った人物が招き入れられたらと考えるとたまらなく嫉妬した。そんなこと、俺に考える権利なんて一つもないと言うのに。
 それでも彼が自分を忘れてしまうのは、許せない。身勝手で、自己中だろう、否定はしない。
 だって彼の部屋を訪ねようとしてドアノブに手をかけて、扉を開いた時に聞こえてしまったんだ。

「南沢さん、」

 そう切なそうに自分の名前を口にする彼の姿に俺の全細胞が歓喜した。
 こうなるといよいよ、彼と別れた意味がなくなる。最早俺は、自分と別れたショックから俺のことばかり考えている彼を見つめていることが愉しくなっていた。切っ掛けはどうであれ、彼が堕ちていく様を見ていることが酷く快感だった。悪趣味だろう、自分でも思う。
 それでも、もっともっと俺のことを考えればいいと思う。そうして俺に泣いてすがって甘えてくればいいと思うんだよ。












2011.12.08-  

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