テスト週間ってのは、どうにも退屈だと思う。学校に来たって部活はないし、毎日毎日己の学力の無さを思い知らされるだけで、大した実りは一つもない(俺が馬鹿なだけだとは言わせない)。そんな時に限って連日雨が降ったりして益々憂鬱な気分へと落とされる。雨が降っていたら、テスト週間であろうとなかろうと部活はないのだけれど、それでも何だかこの最悪な組み合わせに苛々せざるを得なかった。
 俺が気に食わないのは結局他にも理由があるのだけれど、あーあ、学校なんてほんとつまんねぇ、と口を尖らせる。早く帰りましようよ、なんて速水の声が聞こえて、先行けよと返して俺は机に突っ伏した。
 気に食わない。本当に気に食わない。部活がない。南沢さんに会えない。相手もしてもらえない。
 他人にはそんなことでむくれているだなんて、絶対に言えないし、言いたくはないけれど、俺が気に食わない一番の理由はこれだった。
 結局のところ、テスト週間であるというだけで総てが悪循環なのだ。学年の違う南沢さんなんて、部活くらいでしか接点もなくて(なんて言ってはみるけれど、普段であれば南沢さんのいる三年の教室にしょっちゅう通っていたりする)、内申が恋人の南沢さんはやっぱりというか案の定、勉強するからあっち行けよと俺を厄介払いする始末。それでなくともブルーだというのに、止めを剌すかのような雨には全く畏れ入る。
 盛大に溜め息を吐いてもうこのまま泡になっちゃえばいいのになあなんて、やけにセンチメンタルなことを考えていたら、教室の扉がいきなり開いて、煩い声で早く帰れと言われた。ムカつくなあ、と思いながらも抵抗する気力が一切ない俺は、生返事をして傘と鞄を掴みその場を後にする。もう誰もいないのだろう、やけに静まり返った階段を下りながら、ここで南沢さんが俺を待っていた、なんてべタな展開でもありゃ俺の機嫌もあっさり直るんだけどなあなんて馬鹿な妄想を振り切った。あの南沢さんが俺を待ってるって? 悲しいけれどそんなことはない、絶対ない。断言出来てしまうところが本当に虚しいけれど。

「はあ、お前遅すぎ」

 だけど予想に反して、俺が普段使っている下駄箱の前に退屈そうに座っている紫が、俺を見るや否や、不機嫌そうな声を洩らす。カラメル色の瞳を細めて、もう帰ろうかと思っただろチビ、なんて待っていてと一言も伝えてない上に勝手に待っていた南沢さんからの理不尽な言葉に少しムッとしながらも、久々の南沢さんに何だか満たされていくのを俺は感じた。
 何で待ってるんすか。お前が寂しそうだったからな。別に寂しくなんかねーっすけど。可愛くねーの、もっと素直に喜べよ。
 そーいうアンタこそ俺に会いたかったんじゃないんですか、と続けようとして止めた。ここで別に、なんて言われたらそれはそれで傷付くというものだ。南沢さんの場合、照れ隠しという選択肢もあるにはあるのだけれど。
 南沢さんは随分と可愛らしい色をした携帯を開いて眉間に皺を寄せる。これはあれだ、時間を気にしているんだろう。

「帰ろーぜ。つーかそろそろ帰らねえとまた煩く言われる」
「また?」
「お前来るちょっと前に、先生に早く帰れって言われたんだよ」

 南沢さんの言葉にああ、と俺は顔をしかめる。先程自分の教室にも来た先生のことだろう。お互い注意をされた身だ、ここにいたまま再度見つかって注意を受けるのはあまりに得策ではない。ましてや南沢さんは体裁を気にする人だから、こういう些細なことで自分の評価を落としたくないということなんだろう。
 だがそんな南沢さんが、注意されてまで俺を待っていたとなると、何だかとてつもなく可愛く思えてくるのは気のせいなんだろうか。あーほんと南沢さんって凄く可愛い。今俺は初めてテスト週間に感謝した。
 隣でバサッと大きな音を立てて傘を開く南沢さんに、相合い傘しましょうと提案すれば、露骨に嫌そうな顔をしながら、傘あるんだから自分の傘使えよなんて。これで口の方も可愛かったら完璧なのに。俺は文句の一つ言えないように、手に持っていた傘を勢いよく床に叩き付けてみる。どうせ安物の傘だ。壊れようと構いはしない。寧ろ安物だからこそ壊れやすいだろう。案の定渾身の力を込めて叩きつけてやったそれは、若干おかしな方向に曲がってしまった。

「南沢さん、俺の傘壊れちゃったんで入れて下さい」
「お前なあ……」

 有り得ねえ。そこまでして俺と相合い傘したいのかよ。本当お前馬鹿だろ。チビだから脳味噌も足りてないんだな可哀想に。
 悪態吐きながらも半分俺のためにスペースを空けてくれる南沢さんに愛しさを覚える。俺はそこに入って、これでもかと南沢さんにくっついてやれば、もっと離れて歩けよと上から文句の声。でも濡れちゃいますよ、風邪引いたら南沢さんのせいですね。なんて言ってしまえば、南沢さんは眉間に皺を寄せるだけで何も言わなくなった。誤解されることが多いけれど根は優しいこの先輩は、それが俺のせいであろうとなかろうと何だかんだで俺のことを考えてくれるのだ。そんな南沢さんが愛しくて、気づけば傘で隠れることをいいことに、俺は少し背伸びをして南沢さんの櫻色の唇に噛みついていた。



俺の世界は貴方を中心に回ってる。
(ぐるぐるくるり、どこまでも)
fin.
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単純な倉間<ん。










2011.12.08-  

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