南沢さんとの奇妙な生活も三日目を迎えた頃。俺はあろうことか風邪をひいた。

「うわあ、咳酷いですね……」
「ちゅーか、倉間も風邪ひくんだな」

 同じクラスの速水と浜野が心配とからかいを同時に口にするものだから、隣の南沢さんが凸凹コンビなんて勝手に名付けていた。勿論南沢さんの姿は二人に見えてはいないので、二人はそんなコンビ名を付けられていることすら知る由もないのだけど。
 まあでも確かに、俺でも正直言って風邪をひいたことに驚いている。元気だけが取り柄ですよね、と前に速水に言われたこともあったっけ(今思えば、もしかしなくともこれは嫌味だったのだろうか?)。

「あんま無理しないで下さいよ」
「部活も休んだ方がいんじゃね?」
「そうですね……。というかそんな様子だと、倉間くんが部活に参加したくても神童くんが許しませんよ」
「あー……うん」

 部活に南沢さんを連れて行くと、南沢さんは凄い喜んだから。出来れば今日も連れて行きたかったのだが、隣の南沢さんまで二人の言う通りだと、目で訴えてくるものだから、俺は仕方なくその日の部活は休むことにした。
 そう決めてしまえば、一日の授業も退屈なもので。学校生活で一番に楽しみな物を奪われてしまった俺にはどうしてもそのまま授業を受けていることは出来ず、体調不良を理由に早退をした。


 帰宅した俺は、真っ先にベッドへと転がった。ぼすん、と音を立ててベッドが沈む。若干の気だるさを覚えて、俺は制服のまま布団を被る。母さんはこの時間仕事に出ているから、煩く言われることもない。後で判らないようにこっそり着替えておけばいいだろう。今は兎に角横になりたい気分なのだから。

「けほっけほっ、……あー熱上がってきたかな……」
「大丈夫か……?」
「あはは、そんな顔しないで下さいよ。こんなのたいしたことな、げほっけほっ!」

 ああ全く情けない。南沢さんを安心させる心算が余計に心配させてしまった。咳き込む俺に、もう喋んな、そう言って南沢さんは人一倍辛そうにする。悪魔ってのは、こんなに優しくていいものなのだろうか。

「南沢さんって天使みてー」
「だから喋んなっての」
「ほら、そーやって俺のこと誰よりも心配しちゃってさ。悪魔っつーより、天使だよな」

 へへ、と笑って俺は目を綴じた。眠くて仕方ない。久々に風邪をひいて弱ったのか、俺は抗うことなく、睡魔に意識を明け渡した。

「……俺はそんな綺麗なもんじゃないよ」

 だから、南沢さんがぽつりと呟いた言葉は、俺の耳に届くことはなかった。










2011.12.08-  

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