南沢さん、と俺を呼ぶ嬉しそうな声を思い出しただけで、胸が締め付けられる。ぎゅぅ、とあいつの細い腕で抱き締められているような、そんな感覚にも少し近いかもしれない。
 貰ったメールには、律儀に保護をかけて、古い物から消えていく、そんなシステムに逆らってみる。他愛ない会話の記録も総て、俺の携帯一つに残されていた。
 机の上の写真立てには、雷門の奴等皆で写った一枚と、あいつと二人で写った写真が一枚。どうやっても忘れることなんか出来ないのだと、自分自身に言われているような気がしてならない。
 こんなに、女々しかったっけ、俺って。
 自分の携帯は、もうあの頃使っていた番号ではなかった。新しい電話番号も、新しいメールアドレスも、向こうの奴等、あいつですらも知りはしない。
 だけど俺の携帯には、あいつの番号とアドレスだけ、ちゃっかり居座っている。消そうとしても、消させてくれないから、俺自身が。

「やばい、会いたい」

 呟いてみたところで会えるなんてことはない。俺がここにいることも総て俺が望んだことなのに、あいつに会えないというだけで、ほんの少しだけ後悔しそうだった。
 開いたノートに、小さく“くらま”と書いてみたりして。無性に恥ずかしくなって乱暴にそれを消してみれば、びりっと音を立てて紙が破れた。
 どうしよう、苦しい。
 会えないことがこんなにも切ないことだなんて、知らなかった。恋ってこんなにも厄介な物だったのか。本当に知らなければよかった、こんなもの。
 ――本当に?

「んなわけねぇじゃん……」

 苦しい。もういっそのこと、早く窒息してしまえばいいのに。



君に会いたくて。
fin.
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月山沢で倉間を切った南沢さんです。って言わないと判らない。
自分で切ったのに、やっぱり倉間が大好きな南沢hshs。











2011.12.08-  

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