うたプリ | ナノ





那月と出会ったのは、高校の1年だった。
入学した時には既に那月は人気の的だった。童顔にしては不釣り合い過ぎる身長の高さや、主張し過ぎている胸に野郎は釘付けで。そんな俺も気にはしていたが、声をかけようとは思ってもいなかった。
だが運命っていうものは面白いもので、気づけば那月の隣にいて、気づけば那月のことしか考えていなくて、気づけば那月と付き合って…もう6年になる。

那月は栄養士の道へ、俺は美容師の道へと進むことを選んで互いに勉学や生活費のために働きながらも、空いた時間を使って互いの家に行ったり来たりをしている。
最初は必要最低限のものしかなかった部屋が、今では那月の可愛いぬいぐるみを始め下着から服まで置いてある。互いに半同居のような形だ。それはそんなに悪く感じない。きっと、那月と結婚できると思ってる。

別に那月と結婚したいかと聞かれたら、真っ先にYESと答えるであろう。だが、互いの将来性や相性などを考えると、恋人止まりが多いカップルがいるのも又事実だ。そう言えば、神宮寺が今付き合ってる女もそんな感じだった。アイツをガキの頃から知っているからか、幸せになってほしいと思ってしまう。那月と出会って、丸くなったと言われることも多い。

そんなことをしていると、電気ケトルの沸騰したことを知らせる音が響いた。バイト先兼就職先の美容室は、チビ…来栖翔の父親の美容室で、就職して暫くしたら業界関係の人間のカットもしていいと言われた。それくらい、チビの父親に認められている。それもあってか、最近は学校の課題をしつつも仕事をしていたため、バイト先で寝泊まりをしていたから家に帰るのは久しぶりだった。

那月がくれた紅茶を淹れながら、目の前に広がる雑誌に目を移す。大きく開かれたページは、一ノ瀬と渋谷がウエディングドレスのような服を着てヒマワリを互いに一輪持っている。こいつらも学生時代の付き合いで、良き友人だ。ジッとそのページを見ていると、那月が以前呟いたことを思い出す。

確か…そう、あれは去年の冬だった気がする。高校時代のクラスメイトが結婚式を挙げた際に、2人で式場に行った。その時に新郎新婦の姿に、那月は心底瞳を輝かせて夢中にその姿を見つめていた。そうしてポツリと、聞こえるか聞こえないかの声で「いつか、わたしも…」なんて、言っていたことを思い出した。

凄く可愛い発言だ。俺の知っている女で、こんな漫画やドラマでしか出てこなさそうな女でいられる奴は、那月しかいない。そしてそんな素晴らしい女が俺の彼女でもある。それが俺の人生の中で一番の幸せであり、自慢のこと。

「……着せてやりてぇな」

呟いた言葉は静かな部屋に溶け込んで行った。テーブルの上に潰され捨てられたタバコの箱を見つめる。那月が必死に止めてきたから、やめたタバコ。あんなに必死で泣きそうな那月が、本当に珍しくてそしてやっぱり可愛かった。そんないつも何かをくれる那月に、何かしてあげたいと強く思う。スマホを手にとって、アプリを開く。喜んでくれるだろうか、それとも困ったように笑うのか…。前者であってほしい。そう思いながら眠りについた。













「ほらほら!いいからいいから、ジッとしときなさいって!」

「あ、あの渋谷さ、ちょっと待ってくださ…!?」

突然ハルちゃんを通して渋谷さんから連絡がきた。渋谷さんはさっちゃんのお友達で、読者モデルをしている、すっごく綺麗で素敵な女性です。そんな彼女から呼び出されるなんて初めてのことで、何かあるのかと不安だったけど、やっぱりこの不安は拭え無さそうです…。

「早く脱いで!そしてこっちを着て!」

「ひやっ!!!?え、え、ちょっと待って…」

勢い良くスカートを下ろされて、すかさず上も脱がされる。渋谷さんはどうしてこんなにも服の脱がし方を極めているのだろうか。そんなことを考えるまでもなく、渡されたのは真っ白なワンピース。凄く綺麗で可愛いお洋服。

「わあ…かわいい…」

「でしょー?あと、今日は化粧もさせてもらうからもう少し付き合ってね」

「へ?あ、…はい」

渋谷さんがメイク道具が入っているであろう大きなバックを取り出した。その中にはたくさんのコスメ商品が入ってて、私のメイクポーチとは比べ物にならない程の量。これがモデルさんのメイク道具?ただただ驚きながらも渡された服を着る。少しだけ胸が苦しい気もするけど、そんなことを気にするよりもメイクの方が気になった。
やっぱり周りはメイクが上手で可愛らしい女の子ばかりだから、最近は私もするようになった。さっちゃんは可愛いって言ってくれるけど、だけど私自身は可愛いとは思えないし満足できていません。だから、もっともっと可愛くなりたいから、これを機に教えてもらおうかと思います!!








「よーし!でーきたっ。いかがでしょうか、お客様っ」

大きな鏡を目の前に差し出されて、驚いた。
メイク時間はそんなにかかっていないのに、普段の私とは違う私が、目の前に映り込んでいる。目がぱっちりしてて、まつ毛も普段より長い気がする。それになんだか可愛いと…思ってしまう。メイクって、本当にすごい。

「す、凄いです!渋谷さん…っ、あとでメイクを教えてください!」

「いいわよ〜。でも、那月って素がいいからメイクのノリもいいんだと思う。それにメイクしなくても可愛いし…はぁ、羨ましい」

最後の仕上げとばかりに毛先をワックスで少し弄ってもらった。凄く、可愛い仕上がりになった。渋谷さんが私の手をとって、違う部屋へと歩み始めた。次は何処に連れて行かれるんだろう。以前手伝った撮影場所にも似ているような気がする…?

道行く人たちは撮影関係者の人たちらしく、あちこちで機材や打ち合わせの話、そしてモデルさんが居て此処が本当に特別なんだと思い知る。そんな中で渋谷さんやトキヤ君が働いているなんて、尊敬と凄いとしか気持ちが浮かばない。

「とうちゃーく!那月、準備はいい?」

「じゅ、準備ですか?えっと…たぶん?」

突然の問いかけに不思議に思いつつも頷いた。理解できていないけど、渋谷さんが手がけてくれたこの姿。そして渋谷さんは悪い人じゃないから、此処に呼んだ理由も何かしらあるはず。私の答えに満足そうな笑みを浮かべた渋谷さんは、目の前にある扉を開ける。その先に見えたのはー…。

「え……」

「那月、…」

真っ白なスーツを着て、一輪のヒマワリを持つ私の恋人…さっちゃんがレン君と一緒に立っていた。ぶわり、一瞬にして鳥肌が立ち上がる。どうして、なんで、混乱に似た感情が私の頭を巡るけれど、真っ先に浮かび上がる感情はカッコいいの一言で。彼は何をしてもカッコよくてサマになる。

渋谷さんに背中を押されてスタジオ内に入ると、さっちゃんとの距離が更に縮まった。私と同じように、普段とは違うオシャレをした彼は本当にモデルさんの様で、一気に体が熱くなった気がした。

「あ、あの…えっと…さっちゃん…かっこいい…」

久しぶりの再会もあるだろうけれど、だけどやっぱりさっちゃんはカッコよくて、でも言われた本人も何故か耳を赤くして手のひらで口を口を隠している。僕が首を傾げていると、レン君がさっちゃんの肩に腕を乗せて覗き込んできた。

「やぁ、シノミー。久しぶりに会えて嬉しいよ。今日は一段と愛らしくてブラックが羨ましくて堪らない…。」

「タラシは黙ってろ」

荒々しく引き離された腕が宙に舞うのを、レン君は嬉しそうに笑みを浮かべる。長年の付き合いで互いを親友と認め合っているからか、とっても仲が良くて私も嬉しく感じる。僕もつられて笑顔になると、渋谷さんがニヤニヤしながらさっちゃんの背中を勢い良く叩いた。

「なぁによ、那月が可愛すぎて赤くなったくらいなら直接本人に言いなさいよ。」

「うるさい、黙れ」

「いいのかよ、シノミーが不安になってるぜ?」

「わ、私は別に不安には…」

首を横に振るけれど、さっちゃんが眉を寄せて気まずそうな顔をする。こういう時は必ず、さっちゃんは僕のことを考えてくれている時で、それさえも僕にとって心地いいものになってしまっている。だからジッと見つめていると、さっちゃんは小さく、けれどもハッキリと「可愛いよ」と言ってくれた。

「なによ、初々しいカップルね!」

渋谷さんがまたさっちゃんの背中を今度は力一杯に叩く。スタジオ内に良い音が聞こえて、さっちゃんが渋谷さんを黙って睨みつける。3人はいつだって変わらない、まるで出会った頃に戻ったかのように。私は頬を緩ませて、笑っていた。ああ、これがいつまでも変わらない関係でありますように。そう願っていると、さっちゃんが私の手をとって歩き始めた。

向かう先には白いベンチで、なんだか見かけたことのある気がする。私はわからないまま首を傾げ続けていると、レン君と渋谷さんはカメラマンさんに何かを話している。何を話しているんだろう?2人の行動に目を向けていると、那月と心地よい声が鼓膜に揺れる。顔を上げると、頬をゆるりと撫でて嬉しそうに微笑むさっちゃん。

「本当、似合ってる。」

「ありがとう。でもさっちゃんだって似合ってます。」

さっちゃんが口角を上げて笑うのが好き。
優しく頬に触れて撫でてくれる大きな手が好き。
那月って、低くてでも優しく呼んでくれる声が好き。
いつだって、私の心は学生時代のまま。
好きだけじゃ足りないって、こういうことなんだと思う。

「今日はせっかくの休みだったのに、急に呼び出して悪かった」

「ううん、今日は特に何もなかったし、何より久しぶりに会えるって思ったら、いてもたってもいられなかったんだよ?」

そう言うと、さっちゃんの表情がみるみる破顔して、そうしてキツく抱き締めてくれた。ぎゅうぎゅう、痛いくらいに抱き締めてくれる。それさえも気持ちよくて心地よく感じてしまう…だけど化粧が衣装につかないか心配だなぁ。

熱いねぇ、そう呟いたレン君がさっちゃんと私を離そうと肩を引く。それに対して凄く不機嫌なさっちゃんだけど、無理矢理レン君の手によってベンチに座らせられた。そうして乱れた衣装を整える姿は、なんだか翔ちゃんを思い出す。

「なーつき!」

渋谷さんに声をかけられて振り向いた。最後の仕上げだとばかりに、同じように私も乱れた衣装や髪を整えられる。

「女の子はね、好きな人の前だと綺麗で可愛く変身しちゃうの。そうして、いつかは好きな人と将来を誓い合う。それが、今日」

「それって…」

そこまで言うと、渋谷さんがウインクを一つ。ああ、素敵だなぁ。そう考えているうちにさっちゃんの方へ軽く背中を押されていく。さっきのって、つまり、それは…。そこまで思って、立ち止まる。目の前には好きな人で、その人は真っ白なスーツを身に纏い、私はそれに釣り合うような真っ白なー…。そこで思い出す。これは、この前見た…憧れてしまった場所と似ている。

「那月、まだ恋人らしいものを渡せていなかったから…これ」

差し出されたのは、紺色の指輪ケースで。もちろん蓋が開くと眼に映るのは、月の形をあしらったダイヤの指輪で。予想もしていなかった事態に私は酷く混乱してしまって、え、あ…と言葉にならない声を上げてしまった。そんな私の姿を見ながら、さっちゃんは優しげに微笑んでくれる。その瞬間、じわりと涙が溢れ出た。

「まだ結婚はできないけど、それでも俺は那月と将来を誓い合いたい。」

ぶわっ、その一言で涙が止まらなくなった。悲しくて泣いてるわけじゃなくて、嬉しくてただ涙が止まらない。だけど、言わなくちゃ。私は震えた声で必死に答える。そんなの、わかってるじゃないですか。

「わ、たしもっ…さっちゃんと、家庭を築きたい、からっ…うれ、ひ…っ」

ボロボロと流れる涙にさっちゃんが嬉しそうに笑った。メイクをしているから普段よりも優しく涙を拭ってくれて、そして頭を撫でてくれる。ああ、落ち着くなぁ。手を取られて、指輪をつけてもらった。照明の光に反射してキラキラ輝くそれは、互いの思い出の場所を思い出せた。夜空に浮かぶ大きな月に、どこまでも続く大きな海辺に私たちは付き合った。あれから6年も経って、今でも変わらず彼の隣にいるのが信じられなくて、やっと止まったと思った涙が何度目だとばかりに流れ出す。

「泣くほど嬉しい?」

「当たり前じゃないですかぁ…もう、さっちゃんのばか…」

見つめ合って、キスをする。
幸せって、このことを言うんだろう。きっと、この後は久しぶりにさっちゃんのお家にお邪魔して、出会った頃から今までの思い出を語り出す。そうしてご飯を作って、食べて、お風呂に入って一緒に寝て…朝起きたら彼が隣にいてくれる。そんな幸せな1日が待っているんだと思うと、凄く嬉しくて死んでしまいそうなほど心臓がうるさく動き続ける。

「これから2人の素敵な記念日を撮らせてもらうよ。何枚か撮るけど、普段通りの君たちを見せてね」

カメラマンさんがレンズ越しで私たちを撮っていく。真っ白なベンチに座ったさっちゃんと、一輪のヒマワリを手にした私。そうしてキラリと輝く指輪ー…。ああ、私はとっても幸せです。

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ツイッターでのタグで書かせていただきました!べにこさんの素敵な砂にょ那ちゃんの、ウェディング衣装のような真っ白な洋服に一輪のヒマワリがとっても素晴らしく胸を射抜かれて、今回この様なお話を書かせていただきました。長らく時間をいただいて、本当に申し訳ありませんでした。久しぶりの小説ということもあり、凄く支離滅裂な部分がありますし、可愛らしい砂にょ那が出せなかったことが凄く悔しいです…。
ご希望のお話にならずに本当申し訳ありません( ; ; )また機会があるのであれば、その時はよろしくお願いしますっ。今回は素敵なタグに参加させていただき、ありがとうございました!

いつみ