うたプリ | ナノ




・死ネタ&捏造(何十年後のはなし)
・重苦しいです、救いようありません
・支部で「ほんとはうそでしたって泣かせてよ」のタイトルを変えています。こちらのタイトルの方がしっくりくるかなーと思いましたので。
・素敵な絵師様のイラストを見て爆発しちゃいました。すいませんでした。







空気が悪い、機械のボクでも重苦しく悲しみが渦巻くこの密室の雰囲気は感じ取れた。周囲は喪服を着用して暗い顔で涙を流し、お経が読み上げられてる中、棺の前で線香の煙が漂う。顔を上げれば花が豪勢に飾られ、中心には今まで隣にいたはずの人物の写真。

隣でナツキが小さな子供のように嗚咽を漏らしている。いい歳をとったのに、相変わらず可愛らしいキャラクターがプリントされているハンカチをキツく握り締めた拳が、白くなっている。それほど、力を入れているらしい。

どうして、人間はこんなにも簡単に死んでしまうんだろう。つい最近、人が生まれてくる奇跡と素晴らしさを知ったばかりなのに。どうして、こんなにも簡単に死んでしまうの?母親の母胎から必死に生まれてきて、人の温かい肌に触れて、今まで生きてきたのに。どうして死ぬと人の肌はあんなにも冷たく染まっていくんだろうか。キミの寿命は平均まで満たしていないのに、どうして。キミはそんなやつれた顔で棺の中に入ってるの。ボクには、わからないことばかりだ。

「ねぇ、ナツキ…どうして人間はこうも簡単に死ぬの?」

あいぢゃ、だなんて涙ぐみながらナツキはボクの顔を見た。気づけば彼だって出会った頃に比べると年老いた。ナツキはメガネを外しながら涙を拭い、棺の中に入ってる彼に目を向けると、再び涙が瞳に浮かぶ。けれど、僕の問に答えようと息を整えたのがわかる。

「…人間はこの地に生まれた時に、死ぬことが決まっているんです。生まれると同時に終わりが決まる。始まりがあれば終わりがある。そういうことなんです。」

「ボクにはよくわからないよ。ただ、ボクは怖いと思った。ボクはキミたちとは違う、ロボットで機械だ。キミたちが年老いて、こうやって棺の中に入ってるのをボクは見ていかなきゃいけないのかと思うと…正直怖い。」

そう、ボクは怖いと思った。胸がキツくしめつけられるこの感情は今までに感じたものじゃない。それくらいは判断できるようになった。けれど、その判断ができるようになったのも、ボクが人としての感情や私生活、歌の素晴らしさや仲間の力を教えてくれたのは、誰でもなくキミたちなんだよ。なのに、ボクより先に逝くだなんて、そんなの、

「酷いことだと思わない?」

そういうとナツキが困ったように眉を下げた。ナツキを困らせたいわけじゃない。いや、困らせたかったのかもしれない。ボクの立場を少しでも理解して欲しかったのかもしれない。けれど、ナツキがボクの頭を優しく撫でてくれる。何度も何度も繰り返してきたナツキの激しいスキンシップも、今では力を抑えて触れてきてくれる。それもなんだか今では寂しい気もする。なんて、ボクは欲張りなんだろう。

「あいちゃんの未来に僕らが必ずいるという保証はできません。けれど、あの日約束したずっと友達というのは変わりません。あいちゃんがこれから先、もっともっとたくさんの経験をすると思います。それは幸せなことだったり、今日みたいな苦しいことだったり。でもね、その中でも…きっとあなたの中で答えが出る時が、必ずあるよ。それはあなたにとって幸せなのか、わからないけれど。」

「なにそれ、意味わからない。結局キミたちはボクを置いていくんでしょ。」

「…どうでしょう。それは、わかりません。だけどね、あいちゃん。人が死ぬからこそ繋がる未来があるってことも、あるんですよ。」

そう言って、ナツキは棺の中に花束を置いた。ここにいるみんなが声を上げて泣いたり、過去の思い出話を語ったり、ただただ泣きじゃくる人もいる。ねぇ、ボクにはわからないことだらけだよ。どうして、人は簡単に死んでしまうの。どうして、人が死ぬからこそ繋がる未来なんてあるの。どうして、ボクだけ進まないの。

ボクにはまだわからないことだらけ。
けど、ナツキが言うようにボクはボクの答えが出る時が必ず来るのだろうか。それは、まだわからない。だけど、もしそうならボクは…彼らの傍にずっと居たい、そう思うよ。

「…サヨナラ、また会おうね」