うたプリ | ナノ




季節が変わり毎日がジメジメと肌にまとわりつくようになった夏、どうしてか那月を檻から出して庭へ連れて行った。どうしてかはわからない。ただ、ハヤトが変な一言を零したからに違いない。

肌白い手をとって何ヶ月振りかに城から出した那月は眩しそうにキツく目を閉ざす。それと共に額から流れ落ちる汗さえも、綺麗だと思う俺は正直頭が狂い出してる事くらいわかっている。このまま手を離せば逃げ出すんじゃないかとか、またあのクソチビが来て那月を奪いにくるんじゃないかとか、本当は那月はこんな生活を嫌がってるんじゃないかとか…そんなことを考える。

俺を悩ませる当の本人はそんなこと気づくはずもなく笑顔を咲かせ俺の手を引いて走り出す。

「おい、那月…!」

「わぁっ…さっちゃんさっちゃん!空ってこんなに青くて雲はもくもく浮かんでたっけ?小鳥さんってこんなに可愛らしく歌ってた?わあああっ…あのお花ちょーちょー可愛いですぅ!」

俺の心配なんか他所に那月は瞳をキラキラと輝かせながら走り回る。指をあちらこちらに指して幸せそうにはしゃぐその姿をもしかしたら初めて見たかもしれない。

「ふふ、あれ、久しぶりだからかな…ちょっと疲れちゃった」

体力さえも落ち切った小さな身体を支えて何度も頭の中を巡る考えに俺は眉を寄せた。那月を外に出してやらないと、そんなことを考えてる癖に支える手の力が強まる。離したくない、離したくなんかない。そんな俺の身勝手過ぎる考えを汲み取らない那月が俺の瞳を見つめて無邪気に指をさした。

「さっちゃん、見て」

指を差す方へ視線を向ければひまわりが咲いていた。この時期になるとひまわりが下を向き始め枯れていく。それは汚くて俺はあまり好きじゃなかった。けれど那月は嬉しそうにはしゃぐ。

「ひまわりを見ると夏って感じがします。ふふ、毎年ね、幼馴染とひまわり畑に行くんです。知ってるかな?あの村から歩いて20分ほど先にあるひまわり畑」

懐かしそうに語り出すのを耳に傾けていて、どれくらい経っただろう。那月がピタリと語るのを止めて息をゆっくり吐いた。額やうなじに貼りつく髪を払ってやりながら、もう満足しただろうから城の中に連れ戻そうと声をかけようとした時だ。

「ひまわりの花言葉は、あなただけを見つめています。ずっと会えると願った女の人は愛おしい人に恋い焦がれ待ち続けた。ずっとずっと太陽を見上げ待ち続けると彼女は地面に根を張り花となったのです。それが、ひまわり」

ポツリポツリ、口を開いたと思えば神話の話しを繰り出すのにさほど驚きはしなかった。那月が唐突に語り出したり歌い出したりするのは何時ものことだし嫌いではない。俺は短くそうかと呟けば暑さのあまりに体力を奪われているからか体を預けてくる那月が優しく微笑んで、こう口にしてきた。

来年は2人でひまわり畑に行こうね。

その言葉がどういう意味かなんて、流石に俺でもわかった。わかったと同時に嬉しさと罪悪感が混ざり合ってどうしていいかわからなくて、けれど心の底から溢れ出る感情がどちらか分かっているから胸が酷く痛み出した。ふふ、那月の柔らかい笑顔から零れる声と共に抱きつかれた。さっちゃん、大丈夫だよ。その意味はどういうことなのだろうか。俺はキツくキツく抱きしめることしかできなくて、夏特有の乾いた風を感じながら来年ひまわり畑ではしゃぐ那月を想い馳せた。