うたプリ | ナノ




1週間前に日向先生から手渡されたライブチケット。最近学校とかS.M.Sとかに毎日追われてたから自分の趣味に没頭する時間もなかったし、第一那月と砂月に会う時間さえもなかったことを今更思い出した。ライブチケットに視線を向けると席番号とライブ名そして日付が記載されている。

―銀河の歌姫と銀河の妖精が今年のクリスマスを歌で飾ります!―

ファンサイトで書かれていたのを思い出してライブ内容を見ると2人が今まで歌って来た曲やアレンジ曲を歌うらしい、今年のクリスマスは病院で過ごすのではなく那月と砂月の歌で飾られるライブを1人で過ごす。なんだか悲しいのか嬉しいのかわからなくて空笑いをしてしまいつつ会場へと足を向わせた。






会場についてグッズを見ないまま指定された席に向かうと意外とステージから近い場所だった。会場はステージを囲むような形をしており、2人を視界に入れやすく尚且つちゃんと耳に届きやすいシステムらしい。御曹司でSMSの仲間、親友でもあるレンが熱く語ってくれたのを思い出した。席について携帯を弄っていると弟の薫からメールが来た、フォルダを開くと『ライブ楽しんで来てね、でも早く帰って来てくれなきゃ家に入れないからッ!』とご丁寧に可愛らしい絵文字までついていて『彼女かよ』と口から出ていた。暫く待っているとぞくぞくと客が入りライブ開始数分前にスタッフの注意事項などがアナウンスで流れる、ざわざわとざわめく会場内は男女関係なく埋めつくされているらしく上下左右の席からずっと砂月と那月について語ってる。それもそうだ、あの2人はこの世界では凄い歌姫で本来なら俺の手が届かない存在なんだ。ぎゅっと手を握り締める、ここに来ている人たちにとって2人は憧れの存在で高嶺の花…夢を見て当たり前か。もしここで俺が『2人の彼氏です』なんて言ったら叩かれる所じゃない。絶対に殺されるに決まってる。

パッと突然明るかった会場の証明が消えて顔を上げるとさっきまで騒めいていた会場が一気に静かになった。

‐私たちの歌を聴けぇ!‐


2人の声が会場内に響いた瞬間にパッと色とりどりの灯りが点灯し那月と砂月が現れた。歓声が沸き上がる中、那月は普段通り柔らかい微笑みを向けて両手を振り砂月は相変わらずの挑発的な笑みを観客に向け片手だけを振る。BGMが流れ2人が歌い始める、なんともクリスマスらしい曲だ。


会場内がまるで宇宙空間にいるかのように青く染められ星々が飾り那月が牡牛座から牛に変わった其れに跨って会場内を1周するのを見ていると視線が合って嬉しそうに笑顔で手を振られる。可愛くて赤くなった気がした顔をそのままにしながら那月がステージに降りた。よく那月が話してくれたオリオン座が強く響き其れに手を伸ばす。そして砂月に歌が変わり双子座と名を口にすると演出で本物とは別々に那月と砂月がステージ上にいる2人に手をふる。それから斜め右から白鳥のかんむりが現れ水瓶が零れるのを砂月は目を細めて眺めながら歌を紡ぐ。だけど子ぐまのぬいぐるみが那月の目の前に現れ力強く抱きしめた瞬間、足元に子犬のぬいぐるみが現れた。その子ぐまは子犬を見つめ那月の腕から逃げ出し子犬へと足を進ませるのを那月はメロメロとばかりに両頬に手を置いてうっとりしながら歌う。

すると会場内が一変、那月から砂月へと変わり歌い始めると店が並ぶ街中を楽しそうに見渡して手にしたプレゼントを勢いよく放り投げた其れが俺の手元へ見事に飛んで来てキャッチしてしまった。ニヤリと笑みを向けられ人差し指で唇を押さえシーッとばかりに俺を見つめてくるのを俺はただでさえ熱い顔は更に熱くなった気がする。すると那月と一緒で空にあるシリウスがリングを、スピカがピアスを、そしてアンドメダが首飾りを作り砂月と那月に飾られて行くのを本人たちは最初驚いた表情をするもすぐに楽しそうに微笑む。すると彗星がステージ上に流れ落ちてパッとツリーを作り上げた。砂月と那月は本当に楽しそうに会場内を見渡した後に指を指してウインクを投げつける。

観客が声を上げると那月と砂月が隣に立つとサンタが来たとばかりに鈴の音が聞こえ、流れ星が俺らの元に来るそれに愛をアゲルとばかりに2人は背中合わせにして右回りを那月が、左回りを砂月が両手でハートを作りそれが具現化してハートが会場内へと飛ぶ。俺の元にもハートが来て触れると不思議と暖かく感じる。

雪も降り2人が一瞬にしてサンタクロースの服へと変わった。那月は可愛らしくミニスカートで砂月はやっぱりいやらしく露出が高い。

「Silent でなんかいられ Night! Glory 宇宙は Wonderland!」

最後まで演出は凄くて俺は食い付いて見ていた。俺の知っている2人が目の前にいるはずなのに、ステージ上に立つだけでこんなにも輝くものなんだと突き付けられた気がした。

‐Mearry X'mas!‐


鼓膜に響くライブ特有の音たちに俺はただ耳を傾けた。この後何曲も歌う度に演出をすることを客として見るのは初めてで何もかもが新鮮で俺は彼氏としてじゃなく1人の客として座っていた。





「しょーちゃあんっ」

外で待っていると背後から聞こえた声に振り向けば勢い良く抱きつかれた。次にはグリグリて胸に擦り寄る那月はライブ終了後だと言うのに疲れた表情を見せないままただ俺を強く抱き締める。

「翔ちゃんだ、本物の翔ちゃんっ!僕らのライブ来てくれたんだね。嬉しくて僕、翔ちゃんに想いを届けたくて歌っちゃった」

へらり、緩く微笑む那月はライブとは違うただの女の子で俺の知っている那月だった。言っていることが可愛くて強く抱き締め返すと女の子らしい柔らかく甘い香りが鼻をくすぐって一気に安心感が広がる。

「しょ、翔ちゃん?」

「お前マジかわいー」

ゴロゴロと擦り寄っていると頬を真っ赤に染めた那月が俺をまっすぐ見つめてる。すると次にはふにゃんと笑み溢し『翔ちゃんが可愛いよ』と言って来た。取り敢えずセリフの中身は置いといて可愛かったので許そう。

「那月を離せ、風邪引くだろうが」

「いてッ」

突然頭を叩かれて顔を勢い良く上げると砂月が不機嫌そうに俺を睨み付けていた。腕の中にいた那月は明るい表情へと一変、『さっちゃん!さっちゃん、お疲れ様っ』と声を弾ませ俺の腕から出ようと必死だ。

「翔ちゃーん…さっちゃんにぎゅってできないよぉ」

「え、ああ…」

那月の言葉に回していた腕を離すと砂月へと抱きつく姿に笑みが溢れだす。本当に砂月のことが好きなんだな、手を伸ばして砂月の頬に触れて額にキスを落とす。途端に耳を赤く染める姿に満足感が満たされて2人の手を繋ぐ。

「お、まえ今なに…!」

「別にいいだろ、お前と那月は俺の彼女なんだから」

「そうだよ、さっちゃん。ふふっ…顔が真っ赤で可愛い」

一歩後ろにいる砂月を見ると怒ったような困ったような嬉しそうな…そんな感情が混じっているみたいでぎゅっと俺の手を力強く握り返して来る。ああ、コイツは本当に可愛い。『翔ちゃん、僕にはちゅーってしてくれないの?』と拗ねた声がしたから足を止めて顔を向けた時だ。那月がピタリと動きを止め次には喚声を上げると頬を染め瞳を輝かせてる。

「雪、雪ですよ!わあっ、クリスマスに降るなんてロマンチックです!」

繋いでいた手を離されバックからピヨちゃん型携帯を取り出してパシャッと雪が映り込んでいる風景を撮りはじめた。此処は会場から少し離れた街並みで随分とデカいイルミネーションやクリスマスツリーが飾られていて、まるで今はあの日向龍也が出演したドラマのワンシーンみたいだと不覚にも興奮してしまっている。

「俺と那月は雪が降る街で生まれたからガキの頃を思い出して興奮してるんだろうな」

砂月がポツリて呟いた言葉に未だ繋がっている左を向いた。イルミネーションの光に照らされているせいか砂月は目を細めて遠くを見ている。手を差し出し手の平に落ちる雪は一瞬で溶けてしまい儚さを感じていると満足したのか那月はパタパタと駆け足で俺らの元に帰って来た。

「たーっくさん撮れました!見てみて、凄く綺麗に撮れたんだよっ」

「ほぅ…那月にしては上手く撮れてるじゃねぇーか」

写真を見て砂月は微笑み那月を撫でると嬉しそうにアホ毛を荒ぶらせている姿を遠目に俺は2人の手を改めて掴んだ。2人同時に向けられた視線は心地いい。

「今度2人が生まれた街に連れてってくれないか?」

俺の一言に数回まばたきを繰り返し双子同士見つめた後に優しく微笑みを向けられて、この返事はOKなんだとわかって『サンキュー』と返した。

「腹が減ったな…翔の家でいいか」

「は、ちょっと待て俺ん家?」

「何か行ったらダメな理由があるの?」

「ないけど…」

今日は薫がいるんだ、しかも彼女2人が俺ん家に来ると考えたら、その…理性が保つかもわからない。のに2人は行く気満々らしく俺の手を引いて歩きだした。ああ、もう今考えたってしょうがねぇーか。仕方ない、薫にはなんとかして帰らせよう。ため息を吐きフと脳内を駆け巡った記憶、2人は互いにガールズトークをしているのを邪魔するのは申し訳ないなと思いつつ口を開いた。

「今日のライブ、よかったぜ。可愛かったし2人の想いはちゃーんと俺様の胸に届いた」

賑やかな街並みを歩いて俺は今までのクリスマスの中で今年が最高のクリスマスだと噛み締めて自宅へと向かうのだった。

2011.12.25