「なっちゃん!まぁーた甘いものばかり食べてるでしょう?」
林檎の言葉に那月は言葉を詰まらせた。外見ではさほど変わっていないはずだが、何故か林檎は体重が増えたことがわかるらしい。あのシャイニーなら可能だろう能力を何故持っているのか知らないが。
「なっちゃんはアイドルになるんだから、あんまり甘いものばかり食べたらダメってわかってるわよね?私だって食べたいのに!」
「あ、あの…でも甘いものっておいしいから…」
「わかる、なっちゃんの気持ちは痛いほどにわかる。なっちゃんが甘いものを食べる度に幸せそーに!食べちゃう気持ちもわかるわ。だ・け・ど!スタイルを維持するためには我慢するしかないの」
ビシッと人差し指を突き出し注意をする林檎はまるで乙女の怒りに似た表情だ。那月は何も言えないまま小さく、はい…としか言えなかった。
とぼとぼと部屋に帰ると甘い匂いがした。那月はなんだろうとテーブルへ向かうとケーキが置いてあった。
「那月、おかえり」
トイレから出てきた砂月に那月はふわりと微笑んだ。そうしてテーブルにあるケーキを指差して、なぁに?と尋ねると那月にと返される。
「僕、に?」
「ああ、那月はケーキが好きだろう?だから買ってきた」
砂月の言葉に瞳を輝かせる那月。だが先程林檎に言われた言葉を思い出してしゅん、と俯く姿に砂月は不思議そうに見つめる。
「那月?」
「さっちゃん、ありがとう。でも…このケーキは食べられません」
「…嫌い、だった?」
「ち、違うよ!その…林檎せんせぇに怒られて…」
那月は先程言われた内容を教えると砂月はため息をついた。びくりと肩を震わせる那月は呆れられたと思い込み更に落ち込んで見える。
「確かにアイドルたるものスタイルを保たなきゃ駄目だな。だが…那月は今でもまだ大丈夫だし、何より可愛い」
「……え?」
ぱちぱちと瞬きをするのを横目に紅茶を淹れ始める砂月に眉を下げる。
「で、でもさっちゃんはやっぱり細くて軽い子がいいんじゃ…っ!?」
不意に浮遊感が襲い言葉を飲み込んでいると視界が変わっていた。目の前に映るのはテレビと砂月の間近過ぎる顔。
「え、え?」
「お前が体重どうのこうの騒いでたって可愛いだけだ。痩せたいなら手伝ってやる。だが…俺にとってお前はまだ軽い方なんだけどな」
頭がついて行かなくて呆然としているとフッと小さく笑う砂月が額に口付いた。そうして気付く、砂月が自分を所謂お姫様抱っこをしていることに。
「…っ!」
恥ずかしさと嬉しさ、トキメキ等が混ざりボッと耳まで赤く染まる愛らしい恋人の姿に砂月は笑ってしまいながら今度は唇に口付けるのだった。