うたプリ | ナノ









毎日が退屈で仕方なかった俺の前に、非現実なものが現れた。

白く大きな翼が目の前にある。
空から落ちて来たのかは知らないが、額から血を流し血溜まりをコンクリート上に作っていた。辺りには羽根が落ち、翼もまた怪我を負っている。

砂月は何も言えなかった。それは非現実過ぎる光景に対してだが、月夜に照らされる大きな翼がとても綺麗に見え目を奪われていた。

「うっ……、…あ」

「!」

うめき声が聞こえて我に返った。
目の前にいる天使らしき人物が苦しそうに表情を歪ませている。砂月は取り敢えず、死にそうな相手を助けようと携帯を取り出し、知り合いに電話をした。

「…はい、なんですか」

「大怪我している奴がいる。助けろ」

「は?砂月さん、また誰かと喧嘩したんですか?勘弁してくださいよ…、こっちだって暇じゃないんですしシャイニーさんに」

電話越しにいる薫の言葉を遮った。今回本当に危ないのは素人の自分でもわかるくらい、深刻だと予感している。別に自分とは関係無いが、流石に死にそうな人間を放り出すほど冷めてはいない。

「あの変なオッサンも連れて来い。今までにない状況だ」

砂月の言葉に薫は小さくため息をつくが、看護師へ指示する声が聞こえて安心する。場所を告げて携帯をしまうと翼へ目を向けた。

「…これ、本物か?」

フと思う疑問に傷ついた翼に触れてみる。ふわふわして、金をかけているように感じる柔らかさだ。翼を人差し指でなぞっていると、背中にたどり着いた。月明かりしかない道で見づらいが、明らかに背中から翼が生えている。

「…天使?まさかな、こんな非現実過ぎることなんてあり得るはずがない」

ブツブツ呟いているとやっと救急車が来た。

「砂月さん…、…その、…それですか?急患って」

救急車から降りて来た薫を始めとする病院関係者は、信じられないものを見たとばかりに戸惑っている。

「ああ…取り敢えず早く助けろ。かなりの重傷だ」

「来栖先生!酷い出血量ですっ」

看護師が薫に言うと天使らしき人物の症状を確認して、タンカーで救急車へ運ぶ様に指示をした。

「砂月さんもついてきてください」

「は、なんで俺が」

「早く!こっちは患者を助けるのに時間がないんですよっ。あんたの意見なんか聞いてない!」

「く、そガキが…!」

手を掴まれ無理矢理救急車に乗せられた砂月は舌打ちをした。タダでさえ寝ていないのに、面倒ごとに巻き込まれたとすぐに気付き後悔した。





「…疲れた」

どっと体から力が抜けて椅子に座る。此処は病院の個人部屋。シャイニング早乙女が来て説明をすると、あの美風藍を製作した博士と言う奴が天使に興味を持った。シャイニング早乙女も美風藍に必要な材料が得られるかもしれないと言うことで、シャイニング早乙女の力で天使の姿は一部にしか知らされていない。あの看護師たちも口止めをされている。


「…新しい仕事も勝手に入れやがって、もう2日徹夜してんだぞ。ふざけてんのか」

ため息をしてベッドに眠る天使らしき人物に目を向ける。大きな翼のせいで普通のベッドに収まるはずがなく、3つ程繋げた。後日クイーンサイズを持って来るらしいが…。

そこで考えるのはやめた。
頭を使うだけで体力が減って行くのがわかる。気分転換のために病室の窓を開けると穏やかな風が頬を撫でた。

少しだけ気分が和らいだ気がしていると、天使らしき人物に自然と目が行ってしまう。

足を進めて顔を見ると、モデル並みの美貌だと思う。早乙女学園の作曲家コースを担当しているため、アイドルコースに在学している奴や現役を見ているが…これは本当に綺麗だと素直に思った。

胸はないから男だとわかるし、男に対して言うものではないが例えるなら、ギリシャ神話に登場する絶世の美女・プシュケーのようにも見える。

「………、…頭がイカレタか?」

男にプシュケーはないだろ。

そう自分自身に突っ込みを入れて椅子に座ると今更酷い眠気が襲ってきた。徹夜続きで頭の痛いことばかり、今日が日曜でよかったと心の底から思いながら眠りについた。

to be continued…