うたプリ | ナノ






小さい頃から僕らはずっと一緒にいた。
お母さんのお腹の中で元は一つの細胞だったのが、何かの衝撃で別れてしまい一つが二つになり僕という生と、砂月という生を奇跡的に神様から授かったのだと高校生の時に生物で習った。

最初から僕らは一つの存在で、ずっと傍にいなければならないくらい小さい頃から一緒だった。
別に誰かから強制されたわけでもない、僕らが約束ごとをしたわけでもない。気づいたら物心が付く前から当たり前のように存在していた。写真を見ても、お母さんが撮影したビデオを観ても何時だって隣に居て、周りからは仲の良い兄弟だと言われていた。それは今だってそうだ。
僕の隣で眠たそうにする砂月が必死に目を開けている。そんな姿を見て睡魔の波に身を委ねて眠ってしまえばいいのに、最近ハマっていた新約聖書を閉じて鞄に入れるとパチりと目が合った。

「なつき?」

あまりにも眠たいらしい。普段の低い声が少しだけ高くなっているのに口元が緩んだ気がする。

「眠いなら寝てもいいんだよ。あともう少ししたらお父さんたちが迎えに来るから」

さっちゃんの右腕に付けられている腕時計を覗くと時刻は二十一時五十分だった。今日はさっちゃんが志望したいと挙げている大学のオープンキャンパスで飛行機で東京に来たんだけど、お母さんから電話があって久しぶりに家族でプチ旅行がしたいということで、今お母さんとお父さんが東京に向かっていると電話があったのが半日前。

お父さんが口数が少ない人で、お母さんはニコニコと笑顔が絶えない人だからか分からないけど、仲が良すぎるのが家族の僕からしても微笑ましい。もう僕らは大人なんだから子供抜きで旅行な行けばと言ったことがある。するとお母さんは過保護な人だから、心配だから行けないと言われたこともある。さっちゃんにそれを言えば少し拗ねたように子供じゃないのにと呟くものだから、苦笑してしまったのを覚えている。

「那月に何かがあったら心臓に悪い」

「僕は何も起こらないよ。女の子ならこんな夜遅くでも話しかけられるだろうけど、僕に話しかける人はいないから大丈夫」

北海道でも夜遅くに人が集まる場所はあるけど、東京と比べてはいけないんだと思った。目の前を若い男女を中心に、中年の男性たちがザワザワとざわめきながら足早に歩いて行くのを遠目に見ていると、さっちゃんが眉間にシワを作って睨み付けてきた。

「世の中いろんな奴が存在する。東京は人が集まる場所だ、男に興味を持つ奴がいるのは可笑しくないだろう」

「…男の人が僕、に?」

イマイチ実感が持てない。ガタイが良くて身長も高い僕に話しかけるまでは居だろうけど、第一そんな対象に見られることは絶対無いと言い切れる。

「それはないよ。それにそれならさっちゃんがそんな対象になりそう。お兄ちゃんとしてはそっちが怖いよ」

さっちゃんは僕と同じ身長と体格、そして双子だから容姿も似ているけど雰囲気や口調が違う。それだけに幼稚園から今までずっと、さっちゃんはモテていた。兄弟である僕でさえ、さっちゃんは格好いいと思う。いちいち言動や仕草が格好いいというか…その点でいうと僕よりもさっちゃんが狙われそうだ。

「…俺が?キモチワリィ」

「それなら僕に言わないで」

小さくため息をすると一台の車が目の前に止まった。お母さんが手を振っているのに気づいて、ベンチから立ち上がると釣られてさっちゃんも立ち上がる。後部座席に座りシートベルトをつければ、お母さんがお帰りと優しく迎えてくれた。何処か気を張っていたのかもしれない、一気に肩から力が抜けて行った。

「お父さん、お疲れ様」

「お前らもお疲れ、どうだったか?」

「勉学環境と施設も良さそうだ。ただやっぱり―…」


お母さんとお父さんがさっちゃんと話している中、車が動き始め予約をしているホテルへ向かう。見慣れない景色が流れるのを見つめながら、睡魔が体をずっしりと重くのしかかる。さっきはさっちゃんにいたのに、今度は僕がターゲットになったみたい。三人の弾む声が遠くなるのを感じながら車が揺れる心地よいリズムに誘われ意識を手放した。