うたプリ | ナノ





「翔ちゃん、今日も可愛いです。キュートですっ」

いつも通りのやり取りにため息が出た。でもそのため息は呆れじゃなくて、どちらかと言えば可愛すぎて出たため息だ。ふわりと香る那月に似た優しくていい匂いが鼻を掠める。いい匂い、同じ洗剤と柔軟剤を使っているのに、那月が使えばこんなにも変わるんだと気づいた。

「可愛くねぇって言ってんだろ!」

「翔ちゃんは小さくて可愛いんですよ?」

力強く抱き締められるこの腕が最近は好きでたまらない。だから無理には離さない、可愛いは許せないけどこのやり取りが好きだから。

「あ、おはよう!」

食堂に入れば朝から元気な声が鼓膜に響く。那月と同じクラスの音也が激しく手を振って来るのに、笑いながら返した途端。首に巻き付かれていた腕が解かれた。物足りなさを感じつつ席に座った時だった。

「おはようございます、オトくん。今日も好きですよー」

「ありがとう。俺も好きだよ」

ぴくん、右手の人差し指が無意識に反応した。顔をあげると普段通りに笑顔で会話する2人が微笑ましいと同時に、そんなに食ってないはず。つかまだ飯食ってないのに、胃もたれしたかのように気分が悪くなった。あー、やっぱ昨日食ったトンカツがヤバかったか。あれ、でもそんなにガツガツ食ってねぇぞ?そう考えていると食欲無くなってきた、ガタリと席を立ち上がり食堂から出た。吐き気が込み上がってくる、なんでモヤモヤすんだよ。今日も日向先生の授業を受けるのに、休みたくねぇのに、どうしてかいきなり気分が悪くなんだ…?

「…水飲も」

まだ授業が始まるまで時間はある。一旦部屋に戻ろうと気だるい体を動かした。

「翔ちゃん!」

後ろから声が聞こえた
生憎確認することすら厳しい。肩を掴まれ無理矢理振り向かされて眩暈がした。

「翔ちゃん、翔ちゃん!大丈夫ですか!」

「大丈夫だ、からお前は学校に行け」

「嫌です、翔ちゃんが先っ」

何言ってんだ、コイツ
俺が先?何故か笑いたくなった。学校よりも俺が先、だなんてお前のアイドルへの道はその程度のものだった。ってことだろ?ああ、なんだか気分が悪くなった。悪化した。マジ最悪、肩をいまだに掴んで揺さ振ってくる那月に対して段々苛立ちが込みあがってくる。とても不愉快だ

「翔ちゃっ…!」
床に倒れる那月、拳を作り振り上げられていた腕を見て頬を殴ったと気づいた。不思議と罪悪感はなかった。むしろ心が晴れた気がする。当の本人は目を揺らがしていて可愛く見えた。ああ、可愛い、可愛いなァ、那月

「な、んでっ…」

「那月、お前の夢ってそんなもんだったのかよ?」

俺は問い掛けた。
え?なんて可愛らしく問い返して来た那月に目を合わせた。

「だから、お前の夢は、そんなもんだったのかって聞いてんだよ」

那月の瞳から涙が零れた。ああ、勿体ねぇ。涙を舐め上げようと眼鏡を少しずらしたら、ビクンッと大きく揺れた那月の体。本人は瞳を見開いている。砂月が反応してんのか?ペロリと涙を舐め上げるとこれでもかとばかりに瞳を大きく見開く。可愛い、可愛すぎるだろ、お前ら。そんなに俺様が好きか?ククッ、喉が震える。次には腹を抱えたいくらいに大きく笑った。那月の肩を床に押えつけて、腹に寝れば俺を見つめる那月は恐怖に怯えてる。ああああ、殴りたい。可愛い、可愛すぎる。愛おしい。そう、俺はお前が愛おしいんだよ


「那月、さっきはゴメンな?」

殴った場所を優しく撫でれば目を見開く那月、可愛らしい。

「那月があんまり俺に構うから、手ェ出しちまった。でも那月が悪いんだぜ?俺以外に抱き付いて好き、なんて言うから…」

ふわふわしてる頭を撫でて額に口付けると那月は動かなかった。ぎゅっと抱き締めると、おずおずと腕に背中を回して来た。

「ご、めんね、翔ちゃん。もう言いません。僕が好きなのは、翔ちゃんだけだよっ…」

ぐすっ、すすり泣く声が耳に響く。泣き虫な那月は昔からで俺より年上のくせに俺が守らなきゃダメだ。そうだ、俺が守らなきゃダメなんだよ。那月は俺がいなきゃ、生きられないもんな?ずっとずっと泣き虫なままになっちまう。

「なァ、那月」

「なぁに?翔ちゃん」

明るく心地よい声が聞こえて先程まで感じてた胃に違和感を感じなくなってた。あの感覚、なんなんだったんだ?でもまぁいっか、ああ、でも言いたいことがあるんだよなァ


「次に俺以外の奴に好きって言ったら、さっきので済ませないからな。那月ィ?」


普段通りに笑ったつもりなのに那月は再び目を見開いて小刻みに震えてた。ああ、嬉しくて震えてんだろ?いつも俺に可愛いって言うけど、その震えは俺様があまりにも格好よすぎてだよな?ああっ、もう那月、お前マジ可愛い!!