うたプリ | ナノ




真っ白な空間。
無音の世界。
僕とさっちゃんしかいない。
ベッドに静かに眠るさっちゃんは本当にただ眠っているだけで手を優しく握っても、いつもみたいに優しく握り返してくれるわけでもなく。名前を呼べば心地よい声で名前を呼んでくれるはずもなく、ましてや抱きつけば笑顔で抱き締めてくれるはずもない。

いつまでもさっちゃんは隣に居てくれるんだと思ってた。なのに、まさか脳死になるなんて誰が予想することができたんだろう。

さっきお医者さんが告げて来た言葉はとても酷なものだった。

脳死になった弟さんは、もう二度と目覚めることはないでしょう。心臓を機械で動かすことで弟さんは生きて行くことができますが…

お医者さんが言いたいことはわかった。僕はさっちゃんよりも頭が悪いけど、それくらいはわかったんです。多額のお金がかかってしまうことぐらい。僕とさっちゃんは2人暮らしで幼い頃に両親は他界。親戚が生活費を少しくれるだけで他は2人でバイトをして凌いでいただけで、僕1人じゃ無理なことは見え見えだった。

それにね、お医者さんや看護師さんがさっちゃんの洋服を脱がして機械で心臓を動かす管を注そうとしたんです。僕の目の前で、綺麗なさっちゃんの体に、そんなもの、見ていられるはずもなくて、選択肢なんて1つしかなくて…。

「どうして…さっちゃんなのかなぁ?」

視界が歪む。時間が経てば死亡と判断されてしまう。僕のせいで、四ノ宮砂月を殺してしまうんだ。僕にもっとお金があったら、僕が変わってあげられたらよかったのに。

さっちゃんはとっても魅力的な人だった。成績が良くてモデルさんみたいに格好よくて、強くて不器用だけど優しく未来がある人。僕が生きてたって何の意味もないのに、さっちゃんが生きていたら何倍も意味があって素敵な人生を送るはずだったのに。どうして、こんな僕がのうのうと生きているの?

「さっちゃん、ずっと一緒に、居るって…言ったのに…」

あれは嘘だったの?

手を握る力が強くなる。
暖かい温もりなんてない。
ただ冷たいだけ。
もうすぐで時間がくる、きてしまう。ねぇ、さっちゃん、僕はさっちゃんが大好きだったよ。例え姉弟だったとしても誰よりもさっちゃんのことが大好き。

頭の中で浮かぶメロディーと歌詞につられて自然と歌いだす。さっちゃんが大好きだと言ってくれた僕の歌声と唯一の才能。さっちゃんを送りだす梯子になんてならないけど、ただ僕はこんなことしかできないから…。

「もうあなたから愛されることも、必要とされることもない。そして私は…こうして、ひとり…ぼっ…ち…で…っ」

とまらない涙、ボタボタと太ももを濡らして汚ない声で歌い続ける。世界は真っ暗、日付が変わった頃にはお別れがくるんだろう。僕は無力にただ歌い続けるだけ。



ごめんね、こんなお姉ちゃんで。