うたプリ | ナノ




書けなくて挫折したもの
那月聴覚難パロ

それは突然のことだった。
ST☆RISHのニューシングルの収録をしている時だ。耳に違和感を感じたのは。飛行機に乗ったり高山に登った時のようにすべての声が遠く聞こえた。最初は不思議に思ったけれど日常の差し障りはないから気にせずそのままにしていた。それからだ、日に日に聞こえづらくなって行ったのは。その時期はST☆RISHのライブやCDリリースやらなんやらで忙しかったから相談する時間も病院に行く時間もなかった。治るだろうと放置していたのが死神のカードを引いてしまったのだと気づいた時にはもう、あまり聞こえていなかった。

「那月、おい那月」

肩を掴まれて顔を上げると双子の砂月が険しい顔で那月を見ていた。掴まれた本人はと言うと普段通りの笑みを向けながら、なぁに?と明るい声で返事をする。

此処はシャイニング事務所に設けられている一室。早乙女学園を卒業した後に此処を借りて住むことができるのだが、四ノ宮兄弟は二人で住むことに決めていたのだ。それは那月の耳に難があることに気づいた日だったような気もする。砂月は那月の耳に届くように話しながら今日の予定を話している。

那月は現在芸能活動を休止している。一番最初に那月の様子に異変を感じたレンが無理矢理病院に連れて行ったところ、すでに音を聞き取れにくくなっているほどの重度のものだった。それを聞いて黙っているレンでは無くST☆RISHメンバーを含めシャイニーに話したのだ。ザワザワと騒めくメンバーと普段チャラけたシャイニーの表情は笑みが絶えた。低い声域が聞こえない那月は眉間に眉を寄せながら必死にみんなの言葉を拾おうとしても難しく、唯一聞こえた声がメンバー内で声が高い音也と翔の声しか聞こえなかったのだ。それを聞いたシャイニーは深刻な事態だと知り急遽、那月を活動休止にした。

「翔ちゃんは相変わらず可愛いですねぇ。ぎゅーってしたくなります」

ニコニコと笑う那月の横顔を眺めながら砂月は何も言わなかった。一緒に過ごせば嫌でもわかるのだ、那月の耳が悪化していることに。日に日に声のボリュームを上げて聞こえているかの確認をすることが、嫌でもあり怖くもあった。天才と呼ばれている人材を失うことを国民は恐れ、メンバーは共に歌い夢を追い掛けることができないことが不安に変わり、そして砂月は愛おしい存在の笑顔が消えていくことに恐怖感が強まって行く。それを知ってか知らずか以前と変わらない様子で過ごす那月―…。