学生パロディの番外編
翔+春歌(17)
那月+砂月(9)
途中で挫折したもの
「翔くん、今日はありがとうございました。1人じゃ全部買えなかったかもしれません」
「いいっていいって!それに女1人にこんな仕事を任せられないからな」
制服姿の2人は並んで街中を歩いていた。春歌の片手に軽めの買い物袋を、翔の両手には重めの買い物袋を手に持っている。春歌はクラス委員で今月の終わりには学園祭があるためにその準備物を1人で買いに行こうとしていたのを偶然クラスメイトである翔が見つけ一緒に買い出しに行ったのだ。
「でもアイツも最悪だよな。仕事全部を七海に押しつけて帰るなんて」
「いいの、斎藤くんは忙しそうだったし私こういうの好きだから」
「ばぁか。七海は女なんだからこういう時に男が出るのが当たり前なんだよ!俺が斎藤にあとから言っとく」
翔の言葉に春歌はあわあわと空いている片手で左右に忙しく振って大丈夫だから!と力強く言うと翔は眉間に眉を寄せる。それを見ながら春歌は小さく
「翔くんが手伝ってくれたから、私はそれだけで嬉しいかったよ」
そう呟き翔がえ、と言葉を零すとハッと我に返った春歌は顔を真っ赤に染めてちがっ、あのね!と先程よりかも更に忙しくする姿に翔は噴き出してしまいながら小さく笑う。
「ありがとな」
ポツリと小さく、だがハッキリと感謝の言葉を頬をほんのりと染めながらニッと眩しく笑みを作った翔に春歌は俯き小さく頷いた。この2人は付き合っていないのだが端から見たらカップルのように見えるのだろう。翔たちが話しているのを遠目から見ていた人物が勢い良く走って腰へとタックルをかました。やられた翔はと言うと突然のことに驚き前のめりになったかと思うと上手く体を支え切れずにバタンッと倒れてしまった。
「しょっ、翔くん大丈夫ですか!?」
春歌の言葉に大丈夫だと言いながら背中の上に座っているであろう人物は誰だと確認するために振り向いた。するとそこにいたのは怒っている那月が睨んでいた、それはそれは可愛らしく、だ。
「な、那月?」
「翔ちゃんは僕たちの!」
「え?」
那月のセリフに春歌は理解できなくて首を傾げていると、隣に立った少年がしゃがんだと思った瞬間に翔の頭を思いっきりバチンッと叩いたのだ。翔は本当に痛かったらしく、いっでぇ!と声を上げてしまうのを少年は小学生とは思えないような冷め切った目で見下ろしていた。
「さーつーきぃ、なーつーきぃ…。お前ら其処に直れぇ!!」
翔の大きな声にビクッと双子は反射的に肩を跳ねさせ起き上がった為に腰の上に乗っていた那月はコロン、と尻持ちついて地面に落ちてしまう。両手に持っていた荷物をその場に置き双子の肩を掴み起き上がらせると翔はキッと睨み付けた。
「あのな、家だったら許してやらないこともないけど此処は外でしかも怪我する場所だよな?」
「翔くん…?」
全く話しについて行けない春歌を置いて説教し始めた翔の顔はとても真剣で双子はムッと反抗した瞳を見つけていた。
「俺は男だからいいけど、もし七海に当たって怪我でもしたらどうするつもりだったんだ?そこまで考えてして来たなら、許さねぇぞ」
春歌は驚いた。てっきり自分が怪我したどうするんだ、とか、此処は外だからそういうことをしたらイケないということを言うのかと思っていたのに怒っていた理由が春歌のことを思ってのことだったのだ。春歌は嬉しく感じたが双子はあまりにも落ち込んでいるために、翔くんと声をかけた。
「私は大丈夫だよ。その子たちもきっと反省してると思うし…」
チラリと春歌の目を追うと此処は外だったことを思い出した翔はさっきとは違う意味で頬を赤くし段々と俯く姿は可愛くてクスクス笑ってしまう。
「こんにちは、私は七海春歌って言うんだ。翔くんと同じクラスメイト、僕たちの名前を教えてくれないかな?」
春歌が話し掛けると翔に叱られたことが余程ショックだったのだろう、いまだに俯く2人に眉を下げていると那月が春歌のスカートを掴み
「お姉さん、さっきはごめんなさい」
「え、あ、わ、私は気にしてないから」
謝った那月は隣にいた砂月の手を掴み、さっちゃんもと促されてしまえば舌打ちをした後小さく悪かったと呟いた。翔が砂月と名前を呼べば、分が悪そうに今度はハッキリと
「…ごめん、なさい」
謝ることが出来た砂月と那月2人をわしゃわしゃと髪を乱す撫で方をし、よくできました!と翔が言えば那月は頬を染めてへにゃりと笑みを浮かべ砂月は耳を赤くして視線を逸らした。
「ふふっ、翔くんは薫くん以外にも可愛い弟くんがいたんですね?」
「だろー?薫みたいに手が掛かるけど可愛い弟なんだ」
「薫くんと翔ちゃんが可愛いよ!ああ、でもお姉さんも可愛いですっ」
にっこり、微笑みかける那月にキュンッと胸が疼き母性本能を擽られてしまった春歌はだらしなく笑みを見せてしまう。よしよし、頭を撫でると子犬のように嬉しそうに笑うから更にメロメロだ。砂月はと言うと那月とは裏腹に懐くまで時間がかかる為に春歌を睨み付けた後、翔が持っていた荷物を1つ手にして歩きだす。それを翔は慌てて止めるが砂月は不思議そうに視線を向けた。
「砂月、重いだろ?これは学校に置いて来なきゃイケないから俺が持つ」
「俺も学校に行く」
「は、ちょっと待て砂月!」
自分も荷物を持って駆け寄ると無理矢理荷物を奪い返した。砂月はその反動でランドセルが肩からずれ落ちそうだったので、肩にかけ直せば翔を睨み付けた。翔は睨まれることに慣れてしまっている為に怯むことなくため息を出す。
「お前は那月と一緒に家に帰れ」
「翔ちゃーん!」
「ぐはぁっ」
背中に思いっきり衝撃が来た翔は前のめりになってしまっているのをぶつかった那月はお構い無しにぐりぐり擦り寄る。
「翔ちゃんは僕とさっちゃん3人一緒に帰るんです!」
「はぁ?あのなぁ、帰るのは5時過ぎになるし七海を家に送らなきゃ…」
「大丈夫だよ、私は1人で帰れるから」
翔の言葉を遮った春歌は相変わらず優しい微笑みを向けていた。翔が頬を赤らめているのは気のせいだろうか、春歌から視線を逸らすが翔は再び口を開いて一緒に帰らなきゃ危ないと言う。そんな2人を見ていた双子はなんだか寂しさと退屈さが込みあがる。女の前で頬を赤く染めながら楽しそうにしている翔を見たことが無かった2人、それはオモチャを奪われた時の感情に似ているのかもしれない。
「あ、お母さんが迎えに来てくれるみたいです」
携帯で連絡をとった春歌の言葉に翔は一瞬残念そうな表情を浮かべるが次に明るい笑みを見せた。
「そっか、ならこの荷物は俺様が持って行ってやる!家来は早く帰れっ」
「で、でも翔くん1人じゃ持って行けないし…」
「大丈夫ですよ、僕らがいますから」
那月がふわりと笑みを向けて春歌から荷物を受け取る。砂月は翔から再び荷物を奪う2人を見て春歌はクスクス笑ってしまう。すると一台の車が止まった。春歌は車を確認したあと頭を深々と下げる。
「翔くん、今日は本当にありがとうございました」
「いいって!俺が手伝いたかったんだし家来の手助けをするのも俺様の役目だろ」
翔の言葉を聞いて笑みを浮かべながら春歌は双子にも声をかけて手を左右に振り、バイバイと言えば那月は返したが砂月は目を合わせようとしなかった。車に乗り乗り物特有の速さに感心しながら歩きだす翔の後ろを双子は追い掛ける。
「ねぇねぇ翔ちゃん」
「なんだよ、抱っこはしねぇぞ」
「翔ちゃんはハルちゃんのことが好きなの?」