うたプリ | ナノ





雨がザアザア降る中でカラフルな傘がいくつも集まっていた。そちらに目を向ければ学生服を纏った女子高生が五月蝿くはしゃいでいた。那月と翔も釣られて女子高生たちの方を見ると後ろから、ああ、と声が聞こえた。

「今日は何処もかしこも卒業式なんだな」

「そうみたいですね、卒業証書を手に嬉しそうです」

何処か懐かしげに話す2人の瞳はとても優しくて僕は理解できなかった。別に卒業したからって学生じゃなくなるだけであって他は変わらないと言うのに、何故ああも騒げるのかもわからない。しかもここは公の場、少しは周りのことも考えたら?その思いを吐き出すためにため息をついて歩きだすと、ふふっと那月特有の優しい笑い声が聞こえる。

「それじゃあ藍ちゃんの誕生日はいろんな人たちの新しい一歩を踏み出す、素敵な日なんですね」

ピタリ、進めていた足が止まった。するとあの翔までハハッと声を出しながら

「藍の誕生日は特別なんだな!じゃあ今日は盛大に祝ってやらねぇと!」

「それはいいですね〜。あ、翔ちゃん!近くに有名なケーキ屋さんがあるんです。ちょっと高いけどすっっごく美味しいんだぁ、きっと藍ちゃんの舌を満足させることができるはずです」

「そうと決まればそこに行こうぜ!」

勝手に進む話しについていけなくて何も言えなかったけど、ちょっと、そう声を出せば2人は不思議そうに僕を見た。不思議そうに見る側は僕だと思うんだけど?

「勝手に話しを進めないでよ。それになんで僕の誕生日を知ってるの」

すると那月は僕の問いかけに、だって、と声を漏らして次には自然に柔らかく微笑んだ。

「僕にとって藍ちゃんは先輩で友達でしょう?友達の誕生日を覚えるのは当たり前です」

「正直、那月が言う前までは知らなかったけどさ。藍は俺らより年下なんだから今日1日くらいは年上の俺らの言うことを聞いて、素直に祝われろ!」

ニッと無邪気に笑いかけてくる翔に僕は呆れて何も言えなくなった。そして次に出るのはトコトン馬鹿な2人に向けてのため息、止めていた足を前に進めると制止の声が聞こえた。顔だけ後ろを向かせると駆け寄って来た2人に口を開く。

「ケーキ屋、行くんでしょ?」

その一言で効果音をつけるとするならぱあっと明るい表情になった2人は僕の前まで足を進めると、早く行こうぜ!と急かして歩きだす。

「どっちの誕生日なんだか…」

ポツリと呟いた言葉が女子高生たちの声で掻き消されたが僕はチラリと少しだけ見ただけで直ぐに歩き出した。こんな日も悪くはないね。


Happy Birthday! Ai!