うたプリ | ナノ




真っ暗な世界。目の前に希望があったはずのに、今では光すら目で確認することが難しかった。どうして私はアイドルというものを目指していたんだろうか。あの時はちゃんと理由が、目標があったはずなのに今はどうだ。それさえも分からない程に私は私がわからない。

彼女の曲はとても魅力的だ。それは認める。認めている。だけど彼女の曲に触れる度、わからなくなる。一ノ瀬トキヤとしての私と、HAYATOという作り者の私がぶつかり合う。わからない…わからない。

HAYATOを切り捨てられたらいいのに。何度思ったことだろう。きっとコイツを消せないのは怖いからだ。情けない話、コイツを消したとして私の居場所があるのかさえ確かではない。彼女は愛される存在、私は嫌われ者…交わることはないのだろうか。私はやはりひとりなのだろうか。…私は何の理由で、この道へと歩いて来た?

「"あの人"に会うため、でしょう?」

ピクリ、私の指が反応した。
ゆっくりと顔を上げると私の汚物を表した偽物が立っていた。

「トキヤはね、あの人に会うために頑張って来たんだよ?だから嫌いなボクを演じて今まで頑張って来た。いつかあの人に会えるように、トキヤを探してくれるように」

「…あの人に会えるかもわからないのに、ですか?そんなの絶対ではない、曖昧すぎる理想だ」

「そんな理想にしがみついた。弱いはずのトキヤが、手に掴めることさえ難しい理想にしがみついてしまった」

そうするしかなかった。思いついたのが、これしかなかった。だから私は今まで頑張ってきました。だけどそれが間違っていたとでも言うのですか。違う、間違ってなどいないはずなんだ。だって、そうじゃないと私は―…。

「ねぇねぇ、トキヤ。トキヤはそんなに何を怖がってるの?」

"世界はこんなにも明るいのに"

コイツは確かにそう言って、両手を広げこの空間を体で感じているように表現してきた。どこが明るいと言うんだ。コイツはやはり低能らしい。我ながら呆れしか出てこない。この空間はこんなにも真っ暗ではありませんか。

「早く消えてくれ、お前がいると私が私ではなくなってしまう」

「ボクはトキヤで、トキヤはボクなんだよ?今ボクが消えたらトキヤも消えることになる。とーっても!弱ってるから」

どうしてコイツは勘に触るような事しかしてこないんだ。あの同室者の方がマシに思えてくるほどに腹立たしい。

「どこが明るい、だ」

「明るく感じないのはトキヤが心を開いてないからだよ」

「心を開いてどうするんです?あんな奴らに心を開いたって…」

「彼女さえ否定するの?」

瞳が示すその光は何?

「彼女を否定することは思いも曲も全て踏み躙ることと同じ。誰の手で?ボクらの手で彼女を傷つけるんだよ、あんなに小さな体を心をボクらが」

少しずつ壊すんだ。

HAYATOが私の肩に触れる。いや、掴んでくる。皮膚に食い込む爪が痛い。震えが伝わるくらいに力強く掴まれていることが嫌でもわかった。

「…そんなの、彼女が勝手にしてくるだけです」

「ほら、そうやってまた逃げる。ボクの次は彼女から逃げるの?彼女が差し出してくれている手を、振り払ってトキヤは何処に行くの?」

わからない。
瞬時に思った言葉が届いたらしくHAYATOは険しい表情を浮かべ胸蔵を掴んで来た。そうして、ボロボロと零れ落ちる滴が降り注ぐ。真っ暗な空間からポツポツと雨が降り始める。

「トキヤはなにもわかってない。トキヤはひとりじゃないんだよ、トキヤは愛されてるんだよ。どうしてわからないの?」

ボク以上に愛されているのに

それからHAYATOは壊れたように泣き始めた。それはそれはとても不愉快な声で泣き喚き、抱きついてくる。幼い子供が母親に縋るように、しっかりと腕を回し手で掴み助けてと悲願する。

「…助けて欲しいのは、こっちの方ですよ」

視界がぼやけた。今日はやけに激しい雨だ、風邪を引いてしまったらどうしてくれる。そんなことを思いながら胸の痛みを紛らわせるように、目の前で騒がしく泣く奴の口を塞いだ。

(どうして気付かないの)
(とても簡単なことなのに、)