うたプリ | ナノ




「四ノ宮は相変わらずエロい体をしているよな」


あのまま帰っていればよかったと酷く後悔した。授業が終わって寮へと足を運ばせていたら作曲途中だった楽譜を教室に忘れたのを思い出した。今日突発的に書いた物だから今完成させないと二度と書けないと思ったから引き返して来たと言うのに、変な野郎に捕まってしまった。ぶっちゃけコイツの名前を知らないしクラスさえも何コースかも知らない。顔は良くない(那月以上のいい男がこの世にいるはずがない)からコイツは作曲家コースなんだろう、先ほどから俺の体を見てくる野郎の視線に気分が悪くなりバックの中へ楽譜を入れて教室を出ようとした時だ。腕を捕まれ背中に痛みが走る、一瞬なにが起きたのかわからなくて頭ん中がごちゃごちゃしていると視界いっぱいに野郎の顔が映った。背景は天井、まさか…嫌な予感がする。

「制服がパツパツじゃないか…キツいだろう?脱がせてあげる」

「ふ、ざけんな!退けッ」

腕を動かして思いっきり殴ってやりたいのに野郎のせいで動かせない。外見に反して力が強いのがシャクに触る。抵抗していると息を荒げ始めた野郎は顔を近づけ頬をベロリと舐める、ゾワッ!一気にさぶいぼができた。

「ヒッ、き、もいんだよ!離れろっ、触んな!」

「四ノ宮知ってるか?男ってのは抵抗される分、興奮して犯したくなるんだ…よッ」

上半身へ一気に冷たい風が入って来て何がなんだかわからない。脳がショートした。野郎は相変わらず息を荒げながら俺の体に触れたり息を吹き掛けたりしてやがる、流石にヤバイ。こんな奴に犯されるなんて死んでもゴメンだ。しかもこんな場所で犯されるなんて生き恥にもなる。すると脳内に現れた愛おしい兄と、その兄と仲が良い男を思い出したらいつの間にか足が勝手に動いて腹を思いっきり膝で蹴りあげていた。汚い声を上げながら蹲るのを良いことにカバンを持って全力で教室から逃げ出した。後ろから名前を呼ばれる、気持ち悪い、キモチワルイ!吐き気が込み上がる、足が震えて上手く走れない。後ろを振り向けばしつこく追い掛けて来るのを普段なら滑稽すぎて笑っているだろうがそんな余裕は1ミクロンとも残っていなかった。ドンッと誰かの肩に当たってその場に座りつくしてしまう、早く立ち上がらなきゃ、早くはやくはやくはやくはやくっ!

「いってー、って砂月…?」

「しょ、う…」

「おまっ、それ…っ」

俺の名前を呼ぶ声は那月の友達である翔だ。俺の胸を見られて今更気づく、アイツに制服を駄目にされたことを。制服を掴んで隠すようにしたって意味はない。だが真っ青になっているであろう俺を驚いた視線を向ける翔に今はただガタガタ震えるだけだ。遠くから足音が聞こえて反射的に肩が跳ねると翔は俺から離れてアイツに近づいた途端拳を振り上げていた。鈍い音が此処からでも聞こえて珍しく翔が声を荒げ何度も拳を振り下ろす。

「お前、砂月になにしてんだよッ!」

「しょ…う、翔っ」

名前を呼んでも振り向かない、止めたいのに足が震えて力が入らない。ガタガタ震えて情けない。

「ちょっとそこの2人!なにしてるのッ」

突然制止する声が聞こえて顔を上げると那月の担任、月宮だった。俺に目を向けた瞬間、息を飲んだのがわかったがすぐに2人の間に割って入り普段からは想像出来ないような力で翔を止める。

「はいはーい、翔ちゃんはさっちゃんを寮まで送ってあげて。君は私と来てもらうわよ」

月宮が有無を言わせないままアイツの腕を掴んで歩いて行く、アイツは抵抗をしているんだろうが月宮はものともせず歩いて行くのはやっぱり違和感が残る。舌打ちが聞こえて我に返ると翔がパーカーを脱いで俺に着させて来た。次には力強く抱き締められて、背中を擦られる。俺は翔に慰められているのか?優しい手つきで優しい言葉を投げ掛けてくるもんだから情けない、涙が止まらなくて翔の肩に顔を埋めて泣き付いた。

「う、あ、ぁあっ…」

「砂月、ごめん、ごめんな」

謝りながら那月よりも細い腕でキツくキツく力を入れて包み込まれるように抱き締めてくれる。普段頼りなく感じる腕が背中が、今では酷く安心する。それが涙を溢れさせる薬にしかならない。だが翔は泣き止むまでずっとそのままで居てくれた。耳に届く心臓の音を聞きながら胸が熱くなる理由を俺はまだ知らない。