うたプリ | ナノ






毎日毎日、決まったスケジュールに沿ってひたすら時間に追われて過ごすそれは確かに学生時代に憧れていたものだ。デビューして10年目、俺らは日本で人気アイドルとなった。それに先輩、後輩、友達ファンも出来て…幸せだと思う。憧れていた世界に入って歌手からドラマ、映画にも出させてもらっている。今度なんかは海外進出するらしい。有り難すぎて何度も音也と確認したくらいだ。だけど、やっぱり学生時代を思い出すと1つだけ胸に突っ掛かるものが存在してる。過ぎたことを考えたって意味はないんだろうけど、やっぱ思い出にはしたくはない。今でも考えちまう。アイツは幸せだったんだろうか、アイツを支えてやる事は出来たんじゃないか。考えだしたらキリがない。

「ただいまー…」

久しぶりに帰って来た我が家の雰囲気はやっぱり安心感を与えてくれた。靴を脱いで電気をつけるとベットに膨らみが出来ているのに気が付く。合鍵を渡してるのは1人しかいない。自然と笑みが浮かんでベットに歩み寄った、が違和感が襲う。確か那月は明日までドラマの撮影だったはずだ。今ここにいるはずがない、そしたらコイツは誰だ?考えれば考えるほど分からない。もしかしたら那月かもしれない、そう思い布団を剥がした。

「…は、」

ふわふわしたミルクティー色の髪が目の前に映った。目の前にいるのは確かに那月で。でも現在の那月より過去の那月の姿が正しい。何故服を着ていないのかはツッコミを入れたい。そして那月にとって必需品である眼鏡が何処にもない。うっすらと瞼が開き視線が絡み合う。そして次には久しぶりに聞いた低い声。

「……、あ?」

俺はアイツしかないと思った。10年前に突然消えて今までずっと会いたくて止まなかった奴が今、目の前にいる。俺は抱き締めた。暖かい体に幻じゃないってすぐにわかった、ああ、アイツだ。砂月だ!

「さ、つき。さつきさつき砂月!」

「んだよお前、気色ワリィ!」

離れろ!そんな声が耳元で聞こえたけど今は関係ない。今はただ砂月を感じたかった。力強く抱き締めると苦しいのか声が詰まっている気がして離すと驚いた表情を浮かべている砂月。

「お前、…あのチビか?」

「お前が言うチビは俺だろうな」

学生時代から呼ばれていた其れは何故か懐かしく感じた。砂月の瞳に映る俺は金髪だったのを黒に染め一番長い毛先は首筋まで伸びている。そして砂月が驚いたのは身長もあるんだと思う。アレから10pくらい伸びた、いや多分それ以上。那月と身長を比べると今では肩くらいまで伸びて簡単に首筋に擦り寄れてしまう。

「俺は確か消えたはずだ。なのに何故俺は此処にいる、しかもアレから…10年?」

カレンダーに目を向けた砂月は右手で額に触れた。混乱しているのだろう、それは俺もだ。取り敢えず裸のまんまじゃアレだから服を着させるとまぁまぁ、大丈夫みたいだからよしとする。飯を食わせた後に今までの話しをすると納得いかなさそうにしつつも必死に受け入れようとする砂月はやっぱ真面目なんだと思う。

「大体は理解したが…問題は何故俺がこの世に存在しているか、だ。那月とは体を離れ今は何故かお前の目の前に存在する。しかも俺はあの頃のまま」

確かに砂月が再び生まれて来たなら那月の中にいるはずだと考えた方が当たり前だ。だが俺はそんな砂月の考えなんかどうでもよかった。今はただ砂月を感じていたい、明日那月に砂月を会わせてやりたい…それから、ああ、考えるだけで幸せ過ぎる。

ミルクティー色の髪に触れると鋭い瞳で睨まれるが今は可愛く見える、なんて人は10年でこんなにも変わるモンなんだと思わされる。ただ俺が見つめて髪に触れるだけが気に食わないらしく頬を密かに赤く染めつつ「止めろ」とか言ってきやがる。誰が止めるかよ、やっと会えたのに止めない奴なんかいない。

「砂月、」

名前を呼んでもう一度存在を確かめる。これは俺の幻なんじゃないの?この1年はライブにレコーディングに番組と雑誌出演…休む時間なんて1度もなかった。だから目の前にいる砂月は俺の疲労から出来たもので再び会いたいっていう強い願望から現れたんじゃないかと今更思える。こんなこと現実的にあり得ない、だけど現実なんだ。

「おかえり」

すると目を見開き数回ぱちぱちと砂月には珍しく可愛い瞬きを繰り返す。そして次には耳を赤くしながら視線を逸らされ小さく「馬鹿じゃねーの」と、ああ、馬鹿だよ。お前に会いたくて仕方がなかった。お前に渡したいモノがあるけどそれは生憎那月が手に持っている為に叶わない。現在流行ってる携帯を手に取り慣れてしまった其れを起動して那月に一通のメールを送信する。那月は砂月に会えばきっと喜ぶに違いない。

「…ああ、そうか」

ポツリと隣から聞こえた声に俺は顔を上げた。赤らみは消え視線は俺じゃなくて何処か遠い場所を見ていたようだった。

「ずっと誰かに名前を呼ばれていた。うるせぇくらいに何度も何度も、次には身体中温かくなりやがった。それはお前だったかもしれない、那月だったかもしれない」

だから俺は此処に存在するのかもな

コイツは那月にだけ見せていた笑みを今俺の前でみせていた。柔らかく那月と同じようで何処か違う其れに俺は胸が高鳴った。しかも那月の名前より俺の名前を先にいいやがった。勝手に自惚れる俺をコイツは気持ち悪いと引くのだろうか。

それでも構わない。俺は砂月が好きだ、好きでなにが悪い。あの日からずっと好きだった、好きで好きでたまらなくて空回りして那月しか愛せなくて。同情なんてモノで愛したかったんじゃない、俺は那月も砂月も2人を支えて愛したいんだ。携帯が震えて指でスライドすると予想していた文で俺は笑みが深くなったのがわかった。

明日になればもっと幸せな気持ちになるだろう。誰よりもこれを願っていた那月が砂月が泣いて怒って笑って。お互いに今までのことを話して此れからを話すんだろう


きっとそれは遠くない未来
(だれもが望んでいた世界)