俺は大きな空が大好きだ。 上も下もない、ただ無限に広がるそのスカイブルーに俺はガキの頃からずっと憧れていたんだ。鳥のように飛べたら、俺はこの忌々しい場所から抜け出せるんだとわかっていたから。 銀河の妖精が描かれているチラシを折って飛行機を作る。太陽に照らして今日も良いデキだと思う。目を細めて掲げていると肩に重みがかかり耳元で呼吸が聞こえて視線を向けると、オレンジ色の髪が見えてすぐに誰なのかがわかった。自然とため息が出るのは仕方ないことなのかもしれない。 「また紙飛行機か?好きだねぇ」 「わりぃかよ」 「いーや、ただおチビちゃんがすると可愛く見えるのはどうしてかなぁってね」 レンの言葉を聞いて睨み付ける。のに慣れたのか余裕な笑みを浮かべているところが気に食わない。肩に腕を回しているレンの腕を払ってEX-ギアを最終確認していると珍しく食い付かない俺にレンは不思議そうに見つめてきた。 「イッチー、今日のおチビちゃんは可笑しくないか?突っ掛かって来ないんだけど…」 パソコンを弄っていたトキヤは視線を上げてレンを見たあとに俺へ視線を向ける。 「翔だってそういう気分の時があるでしょう。放っておけば大丈夫、その前にレン。先ほど女性があなたを探していましたよ」 どうせいつものことでしょうが、そう皮肉混じりに呟いた声が離れた俺の耳まで届くってことはそれほどデカイ声で言ってるってことだ。レンは眉を下げて両手を上げて連れないとばかりにため息を吐き出す、レンは早乙女学園一モテている男だ。それはそれは漫画に出てくるんじゃねぇかってなくらい朝から晩まで女がレンを付き纏う。ストーカー被害にあったこともあるらしい、自慢話に聞こえるが内容を聞いたら悲惨すぎて聞いてられなかった…あのトキヤでさえ聞きたくないとばかりに課題に目を向けていたほど。 「翔、気分が悪いなら今日のライブは休んだらどうです?変わりは探せばいます」 鋭く重い声が聞こえて手首に触れていた手を止める。違う、気分なんて悪くないしどちらかと言えば快調。でも今日は上手く飛べるか自信がないんだ、いつもなら余裕で飛べるのに、今では飛ぶことさえ怖く感じる。多分、きっと、今日はあの日だからだろう。息を吸って肺に空気を満たす、安心しろ、大丈夫だ、俺なら絶対に飛べる。 「翔ちゃーん!レンくん、トキヤくん!」 背後から声が聞こえ我に返り振り向くと太陽に反射してふわふわ動く髪が見えた。ああ、那月か、何故か不安が薄らいだような気がする。駆け寄って来た那月はレンが頼んだ出前物を持って来てくれたのだ、娘々看板メニューのラーメンを俺たち3人に渡す那月が微笑むとトキヤもレンも自然と笑みが浮かんでる。 「今日もシノミーは可愛らしいね、娘々の制服が少し刺激的だけどそれもいい」 「レン、セクハラですよ」 「ありがとうございます。僕もこの制服は可愛いと思ってるんですっ、ハルちゃんが着るともっともっと可愛いんですよぉ!」 レンのセクハラにトキヤがツッコミを入れるのに対して相変わらずズレた返事を返す那月。そんな3人を眺めながらラーメンを食べているとさっきまでアッチにいた那月が此方に駆け寄って来た、……アイツあの服着るの止めねぇのかな。可愛いんだけど、服がピッチリと体にフィットしてるから胸が強調されて振動がある度に揺れやがる。ぶっちゃけ目のやり場に困るけど…アイツは気にしないんだろうなァ。 「翔ちゃん、今日も可愛いね?特にラーメンを食べてるところなんて超かわいい!」 そしてラーメンを食ってる俺を見て写真を撮るのは止めて欲しい。全て平らげた後に撮るのを阻止した、俺の手が写ったんだろう。にゃんにゃん鳴く那月を放置してどんぶりを隣に置く、と那月は顔を覗き込んで人差し指で俺の眉間に触れて来た。 「眉が寄ってると可愛さがなくなっちゃいますよ?」 「だったらこのまま眉を寄せといた方がいいな」 「ダメ!」 突然声を荒げた那月に不本意ながら驚いた。距離があるトキヤとレンも目を見開き何事だとばかりに那月を見ている。そして次には俺に非難の目を向けて来やがった、おいおい今のは絶対那月が悪いだろ。男の俺に向かって可愛いとか言ってくるから! 「翔ちゃんはいつもの笑顔が素敵なんだよ。笑顔じゃなくったって、普通の表情も格好良くて素敵で可愛いんだから」 …最後の可愛いは抜けば胸にキたんだけどな。でも確かに嬉しかった、俺は自分でもわかるくらいに頬を緩ませて那月の柔らかい髪を撫でる。すると嬉しそうに微笑んで来るもんだから胸が温かくなる。不安なんてもんはもう無い、大丈夫だ。俺は飛べる! 「っ!」 ふわっと風が俺の髪を揺らしたのを見逃さない。立ち上がり紙飛行機を手にして空に飛ぶように助走をつけて勢い良く腕を振った。すると那月は笑顔になって俺より数メートル先の場所まで行きピヨちゃん携帯を強く握りマイクへと変換させた。俺はそれを横目にEX-ギアの翼を広げ飛ぶ準備をする、風が強く吹きまるで俺に飛べと言っているような気がしてならない。 「3.2.1…GO!」 那月が右足を地につけ左足を曲げ爪先で支える体制で勢い良くマイクを握り締めている腕を振り落とした瞬間、機械の力でスピードを出して駆け抜けた瞬間に手を離し空へ飛んだ。 Life‐off! (此処から始まる物語) |