目を開ければ真っ白な天井があった。周りを見れば淡い水色のカーテンとテレビ、キャビネットの上には花が飾ってある。少し経った後に此処が病院だとわかった、そして何故俺が此処にいるのかも思い出せた。那月をバジュラから守った時に記憶が失ったんだ。右手を天井に向けて伸ばし、そのまま頭に手を置いた。

「情けな…」

ため息をついて瞼を閉じた。那月を助けられた後に記憶を手放すなんて男らしくない、上体を起こしてベットから降りると窓から見える青空に目を奪われた。目の前に見えるのは俺が望んでいた空なのに、今いる場所は逃げ出したかった病室…ギュッとペンダントを握って舌打ちを溢した。






病室から出て歩いて行けば見覚えがある後ろ姿が見えた。那月が笑顔で話し掛けると砂月は柔らかく笑って聞いている。俺の前では見せない癖に…那月が言っていた。「さっちゃんは僕に依存してるんです」って、その時の那月は相変わらず笑顔で少しだけ…気味が悪かった。

「あ、翔ちゃーん!」

那月の声が耳に届いて顔を上げると花が周りに飛んでるんじゃないかって位の笑顔を浮かべて走って来て抱きついて来た。抱き止めることは出来たが柔らかいのが当たってる、さ、流石に此れはヤバイッ…!

「翔ちゃん良かった!何処か痛いところはない?もう大丈夫?」

ペタペタと体を触ってくる那月の大きな瞳に涙が浮かんでる、綺麗だと素直に思う。まるで空みたいだ。親指で涙を拭ってやると顔を上げて首を傾げる那月に笑顔を見せる。

「大丈夫だっつーの」

「……っ!」

パアアッて効果音がつきそうなくらいに明るくなる笑顔に俺は自然と口角を上げてしまう。コイツは本当に凄い、俺の気分を一気に明るくさせることが出来るのは多分コイツしかいない。

「きゃっ!?」

那月の肩に置いていた手を叩かれて離れて行くのを俺はため息をつきそうになった。癒されていたのに邪魔をするのはアイツしかいない。

「那月に触るな」

「さっちゃん…」

那月を後ろから抱き締める砂月の目は鋭く俺を睨み付けている。姉である那月は砂月の頬を撫でて微笑めば釣られて笑みを浮かべる砂月はこう見るなら美人なんだけど、口を開けば…

「あのチビと話すな。那月の口が汚れる」

こうだもんなぁ…。
つーか今のは聞き捨てにならねぇ!俺は近寄って睨み付ければさっき迄の優しい雰囲気が消えて険しい表情に変わる砂月、間に挟まれた那月は眉を下げて俺と砂月を交互に見ている。

「今のは俺でも聞き捨てならねぇ、誰と話したら那月の口が汚れるって?」

「お前しかいねぇだろーが、クソチビ」

「ハァ?お前より俺が明らかに身長高いんだけどな、目ェ大丈夫かよ。S.M.Sに腕の良い医者がいっから紹介してやろうか?さっちゃんよォ」

「ああ゙ッ!?お前、いま俺を侮辱したな。俺を誰だと思ってんだ、あの四ノ宮砂月だぞ!」

「だからなんだって言うんだよ。本当にお前は那月の妹か?明らかに違うだろっ、女らしさのカケラがなさすぎッ!」

俺の一言に砂月はピクリと肩が跳ねた。何も言い返して来ないのを良いことに俺は鼻を鳴らして見下ろしてやる、初めてコイツに口で勝てた!よっしゃ!と良い気分になっていると砂月は不敵な笑みへと変わる。

「な、なんだよ…」

「Darlin'近づいて服従?」

近づいてくる砂月から逃げるように後退りをする俺を追い詰める砂月は俺の頬に手を滑らせ人差し指で顎を掬う。

「NO YOU NO LIFE ナンツッテもう絶対!need your heart & need your love OH YES!!スィートでKISS!」

「…!」

歌いながら顔が近づいてキスが出来るくらいの距離、俺は顔が熱く感じて視線を逸らせば案の定、砂月の胸が見えて更に熱くなった気がした。フッと笑みを浮かべる砂月に挑発されていたことに気づく。

「乗っかっちゃってる恋でもGO!もう一回なんてないからHAPPY」

声を出そうとしたのに砂月とは違う歌声が聞こえて横を向くと那月が歌っていた。砂月の自信に満ちた笑みとは逆に少し怒った表情を浮かべて歌ってる。

「no more chance!no rules! GET したいから ラララ I all give it to you.」

俺と砂月を剥がして砂月を睨み付ける那月に怒るワケでも無いらしい。目の前にいる女は自分の姉であるのを自覚があるのかないのかは知らないけど腰に腕を回して笑った。それに釣られて怒っていた顔からふんわりとした笑顔になる。胸が高鳴る、心臓がうるさい!

「3.Hey,I count down.」

「2.Are you ready?」

「1.もう待てないよ?」

那月が歌いながら腕に抱きついて次に砂月が歌いながら頬に手を置いて来る。

「0.愛鳴らして!」

歌い終わって俺は色々限界で。病院内でザワザワとざわめき始めるのに気づく、銀河の妖精と銀河の歌姫が揃って歌えばこうなるのは理解出来るわけで、俺は言いたい事が山々あるのを抑えつけながら2人の腕を引っ張り部屋へ戻る。後ろから2人が何か言っているが気にしないまま部屋に戻ると息を切らした那月と砂月がクスクスと笑い始めた。

「なに笑ってんだよ」

「翔、耳まで真っ赤だぜ」

「ヤックデカルチャー!翔ちゃん可愛い超きゅーとっ!」

俺を指さして笑う砂月と携帯(ピヨちゃん型)を取り出してパシャパシャ俺を撮りはじめた。怒りを抑える俺をそっちのけで楽しかったやら何やらキャッキャッ騒ぐ姉妹に俺はさっきから思っている言葉を口から吐き出した。

お前らが可愛いんだよ、ばーかっ!
俺の一言で2人が頬を染めるまであと数秒!可愛いすぎるんだよ、チクショウ!


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