きみをすきでいたいの続き

あの出来事があった今でも那月は俺に普通通りに話してくる。ただ違うのは必要以上に触れなくなって来たことだ。普段なら10回以上触れてくるくせに、今では3回あるかないかだ。目を合わせてもくれない、話しかけても生返事。俺が何をしたって言うんだ。


はぁ、とため息をついても誰かが心配をすることはない。人付き合いが苦手な俺はよく1人でいる。昔から周りの奴らと合わなかった。何をするにも合わないし理解されない。そんな奴らと合わせる気なんかサラサラなかったし、どちらかと言えば那月と同じ空間にいるのが何よりも心地よかった。

そういえば、アイツは昔から俺の隣に居た。何かがあれば隣に来て、手を繋いでアイツの友達とやらを紹介してくれていた。今思うと兄なりの心配をしてくれていたのかもしれないな。いや、妹に友達がいなくて喧嘩三昧なら心配するしかない、か。

暑い日差しが全身を照らして汗が伝うことさえ、なんだか心地よく感じる。邪魔する奴もいない、今は1人だ。さて何をしようかとベンチに座りながら考えていると、なにやら視界に映る人影が見える。

どうやら那月が気に入ってるチビが手を振りながら近づいて来る。その元気な姿を見るだけで腹がいっぱいだ。

「砂月!んなところに居たら日射病になるぞっ」

「…うるさい」

頭がガンガンする。どうしてこんなにもデカイ声を出すんだ。那月みたいに穏やかな声を出してみろ、きっとこのチビが出したって穏やかになるはずがないがな。

「うるさいって、人が心配してやってんのに…!」

「お前が勝手に心配しているだけだろ。俺が礼を言う必要もない」

そう言うと可愛くねぇの一言。可愛いと言われたいなんて言ってないんだけどな。ベンチから立ち上がれば頭が重くなって視界が歪む。ああ、目眩かと呑気に思っていればチビが抱きしめていた。どうやら支えてくれたらしい。こんなちっさい奴が支えていたと思うと考えれないが…。

「おい、大丈夫か!?だから言っただろ。こんな暑い中居たからっ…!?」

あのちんちくりんが好きになる気持ちがわかるような気がする。体制を立て直して、ぐしゃりと髪を撫でてやる。汗をかいているからか濡れていたが、何故か気にならなかった。多分、ちょっとおかしかったんだろう。

「へ、さ、砂月がいま笑った…?」

「お前の気のせいだろ」

カバンを手にした時だった。那月とチビが呼んだと思えば肩に腕を回されキツく締め付けられる。那月に抱きしめられているんだと気づいた時には嬉しさと羞恥心が襲ったが、何かが違うような気がする。

「那月?」

声をかけても抱きしめる力を強められるだけ。顔を上げると普段のほわほわした表情なんかじゃない、酷く強張った表情だ。もう一度呼ぼうと口を開くも、那月の声で阻止される。

「翔ちゃんはハルちゃんがいるのに、どうしてさっちゃんに手を出すの?言ったよね、さっちゃんに手を出すような人が居たら誰であろうと許さないって」

「はぁ?確かにんなことを聞いたけど、お前なに勘違いしてんだよ。俺が砂月に気があるみたいな言い方しやがって。大体お前が変な気を遣うから砂月がひとりで過ごす羽目になってんじゃねぇか!」

「翔ちゃんに何がわかるって言うんだ!僕はさっちゃんのお兄ちゃんで血が繋がってる。一生結ばれるはずがないんだっ」

お前に何がわかる。
那月の口から零れ落ちる声は今まで聞いたことのないくらい、荒らく低い。何よりも怒りと悲しみが混ざっているものだった。

ただ…俺がいないところでどんな話をしてるんだか。取り敢えずはこの場所から離れたい。ふたりの怒声が響いてるから生徒が集まり始めている。大事になるだけは勘弁したい。

「那月、行くぞ」

「あ、おい砂月!」

「お前はさっさとちんちくりんのとこに行け。アイツが勘違いでもしたら面倒だ」

力には自信があったから那月の拘束を外し、変わりに腕を掴みこの場から離れる。体育館裏に来れば大丈夫だろう。お互い何も言わない、無言の世界。

「…さっちゃん、離して」

沈黙を破ったのは那月だった。

「逃げないって約束をするか?」

「…逃げないよ。逃げるならさっちゃんの方じゃないかなぁ?だって、気持ち悪いでしょう。こんな僕」

抵抗する気力がないのを確認して手を離した。那月は俯いているだけで、やけにセミの鳴き声がうるさく感じる。

「別に、気持ち悪いなんて思ってない。ただ…本人に伝えないままなんて、それこそ俺としては気分がよくない」

俺の知らないところで繰り広げられている会話を俺の前でして欲しかった。何よりもさっきの言葉や先日されたキスの答えさえも、ちゃんと聞いていない。そんなの卑怯だ。

「さっちゃん…あの、あのね、僕は…」

じっと見つめる。
俺より高い那月を見上げると泳いでいる目と合った。

「…僕はさっちゃんのことが好きです。それは兄妹とかの好きじゃなくて、恋人として」

「…いつから?」

「わからない。だけどさっちゃんが生まれた時に思ったんです。ああ、なんて小さく愛らしいんだろうって。この子は僕が守らないといけない。僕しか守る人はいないって」

「だけどそれは妹だから、じゃないか?」

「最初はそう思った。だけどさっちゃんを傍で見ていると、胸が温かくなって離したくなくなった。他人と話す姿を見るのが辛くて苦しかった…さっちゃんにはわからないよ」

そう呟いた那月は目を伏せた。ああ、長い睫毛だと改めて思う。容姿こそ昔から瓜二つだったが、全て上回っていたのは那月で唯一勝てる部分なんて喧嘩と口の悪さくらいだ。マイナスしか持ち合わせていない俺を目の前の兄は愛おしいと言った。それは兄妹としてではなく、恋愛としてらしい。

なんて狂った兄だろうか。

「…さっちゃん?」

そしてなんて愚かなんだろう。

「さっちゃん、どうしたの?気持ち悪かった?嫌だった?ごめん、ごめんね。だから…」

こんな奴を好きになるなんて、本当に愚かで哀れな奴。

「泣かないで」

気持ち悪いんじゃない、嫌じゃない。どうして俺なんかを好きになったのかが理解できない。俺なんか可愛くない、口が悪い、手足が出る、男女、人付き悪いと挙げれば挙げる程いい部分なんかない。

お前は俺より可愛いし人付きも上手いし、優しいし…挙げきれない程たくさん良いとこがある。俺と真逆だ。

「止めておけ、こんな奴を好きになるのは…お前が不幸になる。言っただろう?幸せになってほしいって、だから止めろ」

「僕は幸せですよ?さっちゃんみたいな可愛くて誰よりも優しい、素敵な女の子を好きになれて幸せです」

ふわり、優しく微笑む那月を見ると何故か涙が止まらなくなった。どうして、こんなにもコイツは真っ白なんだろう。さっきからどうしてしか言ってないような気がするが、本当に理解できないくらい俺はぐしゃぐしゃになっている。

「答えは求めない。これ以上の幸せを求めない。さっちゃんの1番になろうと思わない。ただ、この想いだけは持たせてください。いつかさっちゃんに素敵な人が現れるその時まで、この想いを秘める僕を許して」

大きな手が伸びて頬を撫でてくる。ゴツゴツする掌は男らしさを思わせて、その悲願するような言葉はとても優しかった。

「お前は、本当に馬鹿だ」

「はい、わかってます」

眉を八の字にして困ったように笑う。ああ、ズルい。いつもズルい。その顔もその優しい声も全部嫌いになれるはずがないのに。

「俺よりたくさん良いとこ持ってるはずなのに、こんな奴を好きになって人生無駄にして…だけど俺がもっと馬鹿だ。」

だって…那月が、好き

「え…?」

強い風が吹き木々が歌い始める。届いたらしい、あり得ないものを見たように目を大きくする那月は可愛い。

「さっちゃん、今…」

「もう言わねぇ、帰る」

いつの間にか涙も止まっていたから校門へと足を進めた時、後ろからきつく抱き締められた。チラリと振り向いたら、頬を赤く染めながらも幸せそうに微笑んだ那月が居た。ちょっと涙ぐんでいるのか鼻を啜る音が聞こえる。

「さっちゃん、ありがとうございます。だからまだ帰らないで、少しだけ…待って」

甘えた声を出して擦り寄って来る奴はデカい男のはずなのに、どうしてこんなに可愛いのかが理解できない。耳元で囁かれた言葉に鞄を握る手に力を入れて、空いている方の手で手を繋ぐんだ。

誓いのキスまであと数秒。

more!!に日央さんへお返事。





more!!!


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