ピチャッと滴が落ちて水面に波紋が広がるのを俺はぼんやりと見つめていた。静かな空間には湯気が舞い時折、水音が聞こえるだけだ。此処から見える夜景はとても綺麗だがあの南十字星に比べるならばとても綺麗とは呼べない。体中の力を抜いてため息を吐く。今日もライブで疲れた。歌うことは好きだ、スポットライトを浴び観客たちの声援を鼓膜に震わせ人間の欲望が混ざった視線を感じ身体中で自分自身を歌にし捧げる。歌手としてのその歓びを覚えたために苦痛ではない。最近は那月と一緒にすることがあるから嫌になったわけじゃない、寧ろ蝶よ華よと育んで来た那月と一時の間を共に過ごせることは喜ばしいことだ。ただ体力的に追いつかないというのが本音でこれ以上働くと身が滅入る。…それに、アイツにも会っていない。はぁ、口から吐き出した其れは嫌味のように風呂場にこだまする。ため息をするだけでこんなにも気分が落ちたのは初めてかもしれない。ガラッと勢い良く風呂場のドアが開けられ視線を向ければ、タオルを巻いていない那月が眼鏡を外したままヒヨコのオモチャを手に持って入って来た。

「は、」

「さっちゃん、一緒に入ろう!」

間抜けな声と顔をしている俺を関係なしに那月はドアを閉めてヒヨコを浴槽の中に入れてはシャワーを浴びはじめる。はぁ、2度目のため息をついて頭を抱えた。

「聞く前に入ってるじゃねぇか」

「だってさっちゃんと入りたかったんだもん、いいじゃないですか」

シャワーを止めシャンプーで俺と同じミルクティ色の髪を洗い始めるのを目を細めて眺めた。俺と変わらないスタイル…唯一違う場所と言えば胸くらいだ。目の前にいる愛おしい子は目を閉じているためにシャワーが何処にあるのか分からないらしい。那月は手をあちらこちらへ動かす。その姿が可愛くて暫く見ていたが、うー…とか可愛い声を出したからシャワーを手に取りお湯を出して髪に付いている泡を流してやると、俺がガキの頃から好きな…天使のような笑顔を見せて来て胸が締め付けられた気分だ。

「ありがとう」

「気にするな」

ボディーソープで体を洗い始めた那月が手を動かす度に胸が上下にプルプルと揺れる。…自分の胸と比べると那月の方が少し大きい気がするが、これでもある方だと思いたい。自分の胸に触っていると那月が全て洗い終わったらしく白い脚が見えて狭い浴槽の中に入って来たのがわかった。張っていた湯が溢れるのを見つめていると那月がヒヨコを人差し指で突きながらため息をついた。那月がため息をつくとは珍しい、もしかして何かあったのだろうか?そう考える俺はあの頃と全く変わっていない、ガキの頃からずっと那月一筋すぎる自分自身に小さく笑ってしまう。

「さっちゃんが笑ってる。なにかいいことでもありましたか?」

「ああ、昔のことを思い出してな」

「昔のこと?」

首を傾げて不思議そうに見つめてくる那月の容姿は俺と変わらない。なのにこうも愛くるしく見えてしまうのは那月だからだろう。俺がしても周りの女よりイケるかも知れないが那月には負ける。那月はこの世で1番愛らしく美しい女なのだから。夜景を眺める横顔はまるで神話に登場するプシュケイのようだ。

「さっちゃんの顔がよく見えない」

フと目が合い那月には似合わない、眉間にシワを刻みながら俺に顔を近づけて来る片割れに小さくため息をつくのに気にすることなく距離を詰め、ふふっと可愛らしく上品に笑う那月が頭を撫でて来た。俺は特に抵抗する気が無いためにされるがままになっているが…目の前に揺れる胸が厄介だ。この場にいるのが俺だからよかったものを、あの男だったら理性に負けてすぐ那月を犯しているに違いない。

「さっきから僕のおっぱいを見てるけど…触りたいの?」

「は!?ばっ、何言ってんだ!」

那月の言葉に我に返って驚きのあまりに声を裏返してしまった。しかも癖で手が動き浴槽の水面を叩いて湯が飛び散り顔などにぶっかかる。目の前にいる姉が何かしら言っているが、そんなの耳に入るはずがない。大体なにを言ってんだ?…確かに胸は先ほど見ていたが、そんなに見ていないはずだ。

「だって、僕が話しかけても上の空で目線がおっぱいに行ってたから…」

目から涙を流す那月にため息がついた。湯が目の中にでも入ったのだろう。まぁ…お前の胸はどうしてそんなにデカいのか、不思議で仕方ねぇよ。甘い食い物を食ってるからか?もしそうだったとしたら俺も食うしかないのか…。

「僕はさっちゃんの方が好きだなぁ」

「…は?っ!」

バシャンッ今度は先ほどよりも強く水面を叩いてしまって自爆。目に湯が入ったためあまりの痛さに2人して悶えていると暫くして痛みが引いた瞬間に胸を掴まれた。きっと那月は痺れを切らしたのだろう、だが…他人に触られることがこんなにも恥ずかしくてくすぐったいとは思ってもみなかった。

「な、つき…っ、早く離せ!」

「さっちゃんは美乳ですね〜。ずっと触っていたくなります」

「話しを聞け!」

むにむにと好き勝手に触っていると思っていたら次には腫れ物のようにふわりと優しく触れてくる。頭がクラクラするのはきっと風呂に浸かっているからに違いない。すると俺の手を掴んでふにゅりと柔らかいものに当たった。

「っ!?」

顔をあげれば俺の手が那月の胸に触れていた、流石に焦って離そうとしたのに那月が身体を密着させてきたからできない。身体中が熱くなる気がしながら手のひらに収められない胸をゆっくり掴むと指に食い込むそれに驚いた。柔らかくすべすべな胸の感触に夢中になっていると那月が小さく笑って耳元で囁いた。それは普段聞かない、とても低い声で俺はぶるりと震えてしまった。

「なつ…」

ピンポーン、丁度いいタイミングでチャイムが鳴り風呂場に設置されている受話器に那月が手を伸ばせば画面にはあの男。普段なら心臓がバクバクうるさく鳴るんだろうが、今は那月の放った言葉が頭ん中でぐるぐる回って目は那月にしか向かない。ガチャリと受話器を元に戻した那月は目を細め口角を上げて手招きをする。

「砂月、僕らの翔ちゃんが来たよ」

「あ、ああ…」

バシャリと浴槽から出て那月の元に足を運んだ瞬間、抱き締められる。きつくきつく、骨が軋むくらいにきつく。

「翔ちゃんは僕と砂月の恋人、だけど…」

―砂月は僕のもの、わかった?

ぞくりと身体中を駆け巡る電気に目を見開く。ドクドクとうるさく胸を叩く心臓に戸惑っていると早く答えろとばかりに耳へ舌を這わせ始めた那月に何度も頷いた。のに、口で言わなきゃわからないと言ってきた。

「お、れは那月だけのものだ。那月しか触らせない」

すると普段通りの微笑みを向けて無邪気に、よかったぁと声を出した那月に安堵の息を吐く。うっすらと痕がついた部分を撫でながらバスローブを身にまとった那月が俺らの名前を呼ぶところへ駆けて行くのを見つめながら、やっぱり胸を見てしまうのは気にしているからか、それとも何なのか。よくわからないまま俺もバスローブに手をかけるのだった。

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