彼の背中はとても大きく見えた。
いつも前を見て力強く一歩踏み出す姿に何時も目を逸らせなかった。彼はいつも傍にいてくれていつも私達のことを考えいつも誰かを思っていた。それが当たり前のことだと錯覚していた私が悪いんだけど、何よりも私は花村くんが羨ましかった。

いつも彼の傍にいて彼の考えはすべてお見通しだったから。同性だから知り合うのが早かったから私が知らないこともわからないことも分かるのかもしれないけど、花村くんがわかるのにどうして私はわからないのだと何度も考え悔しかった記憶が今でも新しい。

そして私が立ちたかった場所には私とは別に、違う子が立っている。

すべてをリセットしたい。

そう思うのにリセットなんて出来ない。
そもそもそんな高性能なものなんてこの世に存在しないし、何よりもリセットなんてものをしたとして必ず私は彼に会えるのかとか特別課外活動部に入れたのかとか、そんなことを考える私は欲が深いんだなぁと改めて思う。

結局は今が手放せないのだ。

かけがえのない友達ができて私を変えてくれて、そして何よりも淡い恋を教えてくれた彼を失いたくない。なんて、多分そんなことを彼に知られたら困った表情を浮かべながら優しい彼は私を傷つけないような言葉を投げ掛ける。きっと、そうだよね?

「雪子!どうしたの、さっきから鳴上君ばっか見て」

「遠いなぁって」

「は、遠い?何言ってんの、近いじゃん!」

時が経って再び集まった特別課外活動部。

千枝はわかってない、今日が来るまでの間はとても長くて恋しかった私を誰もわかってない。近く感じる彼は、きっと私を見てくれない。だって、あの頃とは違う。遠いだけ。

フと目の前にオムライスが運ばれて来た。ケチャップで私の名前が書かれたオムライス。運んで来た手は大きくて逞しい。

「はい、天城」

「あ、りがとう…」

横を向けば彼が微笑んでいた。
一気に体が熱くなる。熱い熱い熱い!どうしよう、こんなのみんなにバレたら絶対花村くん辺りがからかってくるに違いない。それに彼も不思議そうに見て…っ。

「天城は変わってないな」

「え?」

「もちろん、良い意味で」

昔と変わらない笑顔と声で、確かに彼はそう言った。
なんだか私はそれだけで嬉しくて喉に出かかっている言葉を必死になって勢い良く吐き出した。

「な、鳴上君も!か、変わってないね!」

みんながバッと私に視線を向ける。

気づいた時は既に遅い。熱くなる顔を俯かせていると笑い声が聞こえて顔を少しだけ上げれば、あの頃に見ていた笑顔で。

「当たり前だろ」

ふわり、重かったはずの肩が軽くなった気がした。
彼はまたキッチンへと向かう。その背中はとても大きく見えた。いつも前を見て力強く一歩踏み出す姿に何時も目を逸らせなかった。
そうだ、変わっていないんだ。彼も私も、ただ変わったことはほんのちょっとの出来事。

わかった途端に笑いが込み上がって止まらなかった。なにをあんなに悩んでいたんだろう、彼は変わらず私達の傍にいてくれている。

彼は隣にあの子がいたとしてもちゃんと私達を見てくれているんだ。

「千枝、鳴上君は近いんだね」

ほら、目が合えば笑ってくれる。今でも鳴上君は私達のリーダーなんだから。







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