春を運ぶ前に吹き抜ける冷たい風は彼の青い髪をサラサラ揺らす。
あなたを守りたいと、あなたの傍に居たいと告げてから、わたしは前よりもあなたの傍に居るようになった。

学校の屋上から見える、この海に面した街がわたしは好き。
彼が好きだと言ったから、大切な仲間が生きているから。
機械のわたしがこんなことを考えるのは可笑しい、だけど湊さんは可笑しくない。そう言ってくれた。

頼れる我らがリーダー。

だけど、改めて見たら湊さんの背中は儚く見えるんです。順平さんと比べたらわかる、その小さな背中にはどれほど重い物を背負っているのでしょうか。

湊さんは弱音を吐かないから、きっとその分の重みがズッシリと乗っているのかもしれません。

「ねぇ、アイギス」

「なんですか?」

冷たい風が吹き抜ける屋上は人である湊さんの体に悪いに違いないのに、彼は相変わらず静かな声で静かにわたしの名前を呼んでくれる。

暖めたいのに暖められない。この鉄でできたわたしの体じゃ、冷めきった湊さんの体を暖かくさせることは出来ずに冷たくさせてしまうに違いない。

なんて、不便な体なんだろう。

「どんな別れなら、悲しまずにいられるんだろう…」

「えっ…?」

湊さんは確かにその言葉をわたしに向けて言った。

相変わらず読めない表情…わたしは考えた。どんな別れなら悲しまずに…考えても考えて浮かばない。

わたしは答えを見つけることはできなかった。いや、きっと答えなんてあるはずがないんです。

例えわたしたちの目の前からいなくなったとしても、どんなに綺麗な去り方だったとしても…悲しまずに別れられる、なんてことは絶対にないんです。

「なんて、気にしないで」

彼には珍しい、おどけて笑う表情にわたしは安堵のため息をついた、はずなのに胸の辺りが何故かざわつく…。

ほら、寒いから帰ろう。

手を差し出してくれたその手にわたしの鉄で作られた手を重ねて、学校内へと入ると湊さんはまた何時もと同じ無表情へと変わった。

何時も通りの彼のはずなのに、どうして、その青い瞳が弱く見えてしまうんだろう。

 『どんな別れなら、悲しまずにいられるんだろう』

 彼は確かにわたしに向けて言った。あの時の言葉はなんだったのだろう、どうしてあの時答えなかったんだろう。
 そうしたら、彼は―…助かったのかもしれないのに。






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