ああ、ついにこの日がやってきた。
緊張で手はブルブル震えて止まらない。カットバンだらけなのは、もうこの際気にしないことにする。
麻子がコーディネートしてくれた可愛い服に包まれ、ぐったりとした郁と作り上げた渾身のハートチョコを鞄に詰めて、いざ出陣!
待ち合わせは駅前の喫茶店。
現在時刻、午後2時45分。
ドキドキと弾む胸を落ち着かせようとオーダーしたハーブティーを、ゆっくりと胃へ流し込む。
ふと、大きな窓に目を移した。
ガチャン!
大きな音に慌てて店員さんがやってくる。お怪我はありませんか、そんなことを言っていたと思う。
机の白いテーブルクロスをジワジワとハーブティーが染め上げていく。
そこでハッと現状を把握して、慌てて謝罪を述べてからお代を置いて私はそこから走って逃げ出した。
足早に帰り道を歩く。
何も考えられなかった。
寮の敷地内まで入ってしばらく歩いた時、ドン、と強い衝撃を受けて尻餅をついた。
「いっ!」
尻餅をついた痛みがジンジンと体中に広がる。
「す、すまん!あれ、おまえ…。」
「堂上教官…?」
ぶつかったのは堂上教官だった。
いつも郁と一緒にいるからか私もよくお世話になっていて、郁には厳しいけれど私にはいつも優しく指導してくれる上司だ。
「こんなとこでなにやって、って、おい!そんな泣くほど痛かったのか?」
「え?」
言われて気づいた。私は、泣いていた。
見て、しまったのだ。
待ち合わせていたはずの彼が綺麗な女性と歩いていたのを。
その手には可愛らしくラッピングされた箱を持っていた。
つまり私は、大勝負どころか、勝負すらさせてもらえぬまま振られたのだ。
「う、痛いです…。いたいぃぃ。」
あとからあとから溢れて止まらない涙に堂上教官はひたすら困った顔で頭を撫でてくれた。
ねぇ、これあげようか
もう私には全くの不要なものなのです。