ああ、甘ったるい。


世間が、空気が、雰囲気が。
そう思うのは全て製菓会社の陰謀によるこのイベントのせいだと、私は思う。

周りはキャッキャと雑誌を見ながら騒ぎ立てる可愛らしい女性達。

それを遠巻きに見つめながらもしかしたら、なんて期待する男性達。


「ああ、甘ったるい。」

「なんて言いながら、チョコレシピを机に堂々と広げてるあんたもどうかと思うわよ。」

「いてっ!麻子!」

ポカリと頭を持っていたバインダーで叩いたのは同僚の柴崎麻子。

黒髪ロングを揺らしながら彼女は自分の席へと座ると、くるりと此方に椅子を回して向き直った。

「それで?何を作るかは決まったの?」

「う、それが…決まらなくて…。」

「バレンタインデーって明日でしょう?」


ぐっ、と言葉に詰まる私を尻目に麻子は呆れたような笑みを浮かべて椅子を回した。


だって、しょうがないじゃない。

これは私にとって一世一代の大勝負なのよ。悩まない訳が無い。

ずっとずっとあの人のことが好きだった。

勇気を出してなんとか約束を取り付けたのは一週間前。

その日から明日の為だけ考えて生活してきた。


「…待ち合わせの時間は?」

「2月14日、午後3時。」


「しょうがないから、服のコーディネートくらいは手伝ってあげる。だからあんたはそのチョコ作りに思う存分励みなさい。」

「麻子ー!!大好きー!!」


「はいはい、早く決めなさいよ。」






2月14日、午後3時

タイムリミットまであと僅かです。








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