あれから一年が経った。


ああ、甘ったるい。


世間が、空気が、雰囲気が。
今年も製菓会社の陰謀渦巻くあのイベントがやってきた。

周りはキャッキャと雑誌を見ながら騒ぎ立てる可愛らしい女性達。

それを遠巻きに見つめながらもしかしたら、なんて期待する男性達。



「ああ、甘ったるい。」

「去年と同じツッコミなんてしないわよ。」

いつぞやの時と同じようにバインダーを抱えた麻子は、呆れたように息をついて私を通り過ぎて椅子に座った。

「え、どうしてよ!しようよ!」

「はいはい。んで、今年の作るチョコは決まったの?」

「あ、うん!もうバッチリ!」

「そ?良かったじゃない。頑張んなさいよ。」

「うん、ありがと。麻子。」


麻子は椅子をくるりと回して自分の机に向き直すと、ひらりと手をふった。





待ち合わせは2月14日午後3時。


今年は、麻子のコーディネートも、郁の毒味もいらない。

全部自力で頑張った。



手元には下手くそなりに試行錯誤してなんとか頑張ったハートチョコ。美味しいとは言えないかもしれない。けれど、愛だけはたくさん詰めた。

服装だって、無いセンスを寄せ集めて精一杯可愛くなるように頑張った。



時刻は午後2時45分。


「すまん。待たせたな。」

「いえ、今来たところですから!それに、まだ待ち合わせ時間前ですから。」

「その、なんだ…。二人きりのときは敬語は無しだって約束だったはずだが…。」

顔を背けながらも優しく手を握ってくれる。それが嬉しくて、ぎゅっと握り返せば、また力がちょっとだけ強くなった。


「ふふ、私、幸せ。」

「どうした、急に。」

「言ってみただけ。去年の今頃は、まさかこんなに自分が幸せになれるなんて思ってもみなかったから。」

「あの時、俺がどんな気持ちでいたかなんておまえは知らないんだろうな。」

ぎゅっと握られていた手が不意に離された。

驚いて隣を見上げれば、今度はぐっと力強い腕に引き寄せられてすっぽりと広い胸に収まっていた。

「ふふ、あったかい。」

「今年は、俺だけの為のチョコなんだろ?」




「もちろん。堂上教官、大好きです。」









こげくさい愛をあげる

来年はもっと美味しく作ってみせます。





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