「もういっかい。」 / 手塚 光
「好き。」の続き あのとんでも告白から一週間。
噂は瞬く間に広がっていった。
白昼堂々、ましてや業務中にうっかり想いをポロリしてしまったのだから自業自得なのだが、周りからの生暖かい視線が否応でもなく突き刺さってとても居心地が悪い。
今日はあの日と同じカウンター業務だ。
そして、彼もあの日と同じ図書館業務の日らしい。
カウンター越しに見える後ろ姿は、まるでデジャブの様だった。
「はぁ…。言うつもりなんてなかったのになぁ…。はぁ…。」
「ちょっとアンタ、今溜め息2回もついたでしょ。幸せが逃げるわよ。」
「もう逃げた後ですぅー。」
隣の椅子に座っていた柴崎があらあら、なんて笑っている。この顔は絶対からかっている時の顔だ。
「それで?返事はもらえたの?」
「もらってない。その時はすぐに誤魔化して、逃げた。」
「バカね。こんなに噂が広まってるんじゃ意味ないでしょうに。」
柴崎はそう言って本棚を指差した。
自然とつられてそちらへ目を向ければ、まさかの人物と視線がかち合った。
その時驚いたような表情をした彼だったが、一瞬にして眉間に皺を寄せ、あろうことかツカツカとこちらに歩み寄ってきた。
え!何!?逃げたい!
腰を浮かしかけたが、横から柴崎にぐっと腕を掴まれ逃げ出すことは叶わなかった。
目の前に彼が立った瞬間、何を言われるのか検討もつかず、怖さで思わず視線を手元の書類へと落としてしまった。
「名字士長。」
「ひぃ!な、なんでしょう!」
「俺、やっぱり納得できません。」
「へ?な、何が?」
「この間のこと、嘘だって言ってましたけど、今日だってずっと視線を感じてました。」
「えっと、それは…その…。」
怒ってるのかな。呆れてるのかな。
今ここで勇気を出したら、どうなるのかな…。
「俺、名字士長のことずっと見てました。俺は、あなたのこと好きですよ。」
少しの沈黙の後、彼が放った言葉の衝撃さについ視線を上げてしまった。そして視界に入った手塚くんの表情は、自分の想像を遥かに超えていた。
「顔、まっか…。」
「…っ!」
これは、どういう状況だ?
その前に、彼は今なんて言った?
導き出された答えは、あまりにも甘くて衝撃的で。
あの日と同じように、それはポロリと口から滑り落ちた。
「もういっかい。」(…俺は、好きですよ。)(う、嘘だ…。)
(こんなギャラリーがいる中、嘘なんて言うわけないじゃないですか。)
(…ギャラリー?…あああああ!!!!)
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