喧騒に紛れてキスをした / 堂上 篤
大きな音。
賑わう人々。
世界は鮮やかな色に染まっては散り、染まっては散りを繰り返す。
今日は休館日と花火大会が奇跡的に重なったおかげで、こうして二人で来れた。
そっと隣を見上げると同じように空を見上げたままの彼がいた。
いつもは厳しい表情が多い彼が、穏やかな顔をしていた。
このまま時が止まってしまえばいいのに。
本当にそんなことを願う日が来るとは思わなかった。
ああ、なんだか胸がいっぱい。
じっと横顔を見つめていると、ふと彼がこちらに気づいてしまった。
慌てて目線を逸らしたら、ふっと息をつくように彼が笑みを漏らした。
「…何よ。なんか文句あるの?」
「そんなこと一言も言ってないだろ。」
くすりと笑う。
何もかも見透かされている気がして、私は頬を膨らませた。
すると、彼は今度は声を上げて笑った。
「…からかわないで。」
それが余計になんだか恥ずかしくて、とうとう顔を背けた。
でも、
「ほら。」
短い言葉と差し出された手だけで私はすぐに許してしまうのだ。
「ねえ、またいつか花火、見に来ようね。」
「そうだな。来年もまた来よう。」
「来年も休館日と被る可能性なんて無いけど。」
「…休館日と被らなくても休みを取るさ。」
「二人同時に?小牧くんに悪いわよ。」
「いや、大丈夫だ。」
「ふふ。どうしてそう言い切れるの?」
「その頃には俺と結婚して、お前は仕事辞めてるさ。」
「もう…馬鹿。」
夜空に咲く大輪の花に負けないくらい私の頬は真っ赤で。
差し出した手には、夜空の花よりも輝くものが光っていた。
「堂上名前っていい響きだな。」
「うん…。」
来年、再来年、これから先もずっと、二人で来よう。
喧騒に紛れてキスをした title by:
確かに恋だった[ 5/8 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]