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「あれ?橘じゃん!え、おま、何やってんの!?」
店内に響き渡ったのは陽介の声で、それは随分慌てた様子が伝わる声色だった。
「ん〜?はなむーうるさい。」
「いやいやいや、何で橘がここにいんのかって聞いてんだよ!」
「あ?あずみは用事があるって言ってすぐに帰ったんだよな?」
「あずみ、靴ひも解けてるぞ。」
「相棒!こんな時までかいがいしく世話してる場合じゃねーんだよ!!」
陽介達は前日のマヨナカテレビを受け、放課後りせがいるという豆腐店に来ていた。
事件を未然に防ぐ目的、とは言ったものの陽介の下心が存分に盛り込まれていたことだけは確かだ。千枝と雪子に呆れた顔をされたのはつい先程のこと。
しかしあずみは、その話し合いが行われるよりも先に用事があると言って帰宅していたはずだった。
けれど今目の前にはネコ耳フードを揺らす彼女が、店の奥から出てきたのだ。
「私はおばあちゃんとりーちゃんに会いに来たんだよ?」
りーちゃん?
三人が疑問符を同時に浮かべていると、あずみは「ねっ!」と隣のりせへ向き直った。
「この人達、あずみ先輩の知り合いだったんだ。」
早く言ってくれれば良かったのに、と呟いて笑うりせに男性陣は驚いた。先程会話した時には、テレビとは全然違うというイメージを抱いていたからだ。
ニコニコと笑うあずみに安心したように笑みを浮かべるりせ。
あずみの交友関係の広さは、まだまだ未知数だ。
その日の夕ご飯。
「あずみ先輩の知り合いだっていうから。あと、なんか心配してくれたみたいだし。」
そう言ってりせが包んでくれたがんもどきと豆腐が並んだのだが、堂島も同じように豆腐を持ち帰り、その日の食卓を埋め尽くした。
自然と流れる気まずい空気。
悠は突き刺さる視線を感じながらも平然とご飯を食べるフリをしていた。
店の前で鉢合わせた時にも感じた。これはきっと疑念の視線だ。
「久慈川りせと、何を話した?」
「りーちゃんとはお友達なの!」
「あずみが豆腐屋のおばあさんと仲が良くて、その繋がりでりせとも仲良くなったそうです。」
「…そうか。いや…すまん。」
疑われるのも無理がないことは分かっている。けれど、それでも堂島に話すわけにはいかない。
そっとあずみに目配せをすると、あずみも同意したように静かに視線を落とした。
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