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「こちらは橘あずみさん。昔からお豆腐を買いに来てくれててね、今ではすっかり茶飲み友達なんだよ。」
「こんにちは〜!」
ふわふわとした印象にぽやんとした笑顔で挨拶をした少女は、よく見れば猫耳パーカーの下には八十神高校の制服を着ていた。
年は同じくらいだろうか。
だとしたら、この人はクラスメイトになるかもしれない人。
せめてこれぐらいは、と目線を下に落としながら挨拶をした。
「…こんにちは。」
「ん〜、りせちゃんも一緒にお話しようよー!」
「…え?でも、…」
「そうだねぇ。私はまだ店番があるから上がって、りせとお話しておいでよ。」
「わーい!じゃあ、りせちゃん行こう!」
そう言うとあずみは慣れたように靴を脱いで上がりこむと、りせの手を掴んで階段を上っていった。
戸惑うばかりのりせとは反対に、あずみは猫耳フードをピョコピョコと揺らして鼻歌まで歌っている。
「ちょ、ちょっと待って!」
「待ちませーん!」
「りせちゃん、なんか困ってるみたいだった。ん〜、それってお外に人がいっぱいいるからでしょ?なんで今日に限ってこんなに人がたくさんいるんだろうねぇ〜。でも、お部屋の中だったら大丈夫だよ!だから、私とお喋りしようよ!」
「………うん。」
話せば話すほど、本当に不思議な子だと思った。彼女の周りを包む雰囲気は独特で、何故か居心地が良くて………悪くないと思った。
「えー!りせちゃんって、あのりせちーなのー!?」
「……知らなかったの?ちょっとショック。」
「ん〜、そう言われれば。まあでも、お友達なら別に関係ないよね!」
「お友達…?」
「え!違うの!?」
「…ううん。こっちに越してきてから初めてのお友達。」
「わああ!りーちゃん笑うとすっごく可愛いいい!!!」
「り、りーちゃん?」
「いひひ!私が付けたあだ名なのー!りせちーだと、皆んなが呼んでるからつまんないもん!」
「…うん、ありがとう。嬉しい!」
こっちに越してきてから初めて笑ったかもしれない。
笑うと可愛いと褒めてくれる。
でも、周りの大人たちが褒めるような感じではなくて、もっともっと暖かく感じた。
「え、先輩なの?」
「二年生だよー?」
「そっか。じゃあ、あずみ先輩だ。」
「むふふ!いいですなー!学校通い始めたら、また学校で会えるね!あ、お豆腐もまた買いに来るねー!」
すっかり日も暮れた、帰り際。
そう約束をして大きく手を振りながら帰っていった。
あずみ先輩、か。
「おばあちゃん、明日から店番、手伝うね。」
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