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「くあ〜、眠い…」
ザワザワとうるさい教室の中で橘あずみは口元に手を当てて、小さな欠伸をした。
今日は始業式。
新学期の始まりとだけあって、周りは浮き足立っているように見える。
しかしそれはこのクラス以外の話、だ。
「ついてねぇよなぁ…。このクラスって、担任、諸岡だろ?」
「モロキンな…。一年間、えんっえん、あのくそ長い説教聞かされんのかよ…」
ちょうどそこへ、近くの席から話し声が聞こえてきた。
そう。このクラスの担任は、今この学校で一番嫌われている最悪な教師─諸岡(通称、モロキン)なのだ。
この事実に誰もが絶望しただろう。
実際、あずみもモロキンを嫌っている。
いつもいつも目の敵にしてくるからだ。
まあ原因はあずみの服装にもあるのだろうが…。
「あずみ〜。いつまで寝てんのさ。」
「ん〜、寝てないもん。"今から"寝るところだったもん。」
あずみが眠気と格闘していたところに話し掛けてきたのは、あずみの幼馴染みである里中千枝だった。
「今から?ん〜…寝るの我慢してお喋りしない?」
次に話し掛けてきた黒髪美人は同じく幼馴染みの天城雪子。ちなみに彼女は天城屋旅館の一人娘だ。
「ん〜、えっとね、いいよ。」
あずみがこくりと頷けば、被っていたネコ耳フードが揺れた。
「よっしゃ!早速だけどさ、このクラスに都会から転校生来るみたいだよ?」
「ん〜、都会から?それって前のはなむ〜みたいだね。」
千枝の言葉にあずみが返して隣の花村という男子へ話をふった。
しかし彼は何だか疲れているのかぐったりとしている。
すかさず千枝が問い掛けた。
「…あれ?なに朝から死んでんの?」
「や、ちょっと…。頼むから放っといたげて…」
「はなむ〜。どったん?」
その様子にあずみは花村の肩をツンツンとつつきながら、伏せられた顔を覗こうとした。
「うっわ!マジで橘危ねぇ!」
「…んあ?」
しかし覗き込む前に花村が突然、顔を真っ赤にして起き上がった。
「あーー!やべぇ!」
口をポカンと開けて首を傾げたあずみを見て、花村はまたもや頭を抱えて机に突っ伏した。
「花村のやつ、どしたの?」
「さあ…?一つ言えるとしたら、あずみはやっぱり天然のたらしね。」
「はなむ〜?」
そんなことを言われてるとは露知らず。
あずみは首を傾げた後、再び小さな欠伸をした。
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