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「いた!」
「みーちゃん!!」
最上階。
やっと見つけた完二は、今まさに影と対峙していた。
「もうやめようよ、嘘つくの。人を騙すのも、自分を騙すのも、嫌いだろ?」
完二の影が諭すように呟く。
騙すとは、一体なんのことなのだろう。
あずみにはその意味がわからなかった。
「やりたい事、やりたいって言って、何が悪い?ボクはキミの“やりたい事”だよ。」
「違う!」
「女は嫌いだ…。偉そうで、我がままで、怒れば泣く、陰口は言う、チクる、試す、化ける…。気持ち悪いモノみたいにボクを見て、変人、変人ってさ…。で、笑いながらこう言うんだ。」
「み、みーちゃん…?」
それ以上言うな、とでも言うように完二の肩が震えている。
「“裁縫好きなんて、気持ち悪い。”」
「“絵を描くなんて、似合わない。”」
「“男のくせに”…“男のくせに”…“男のくせに”…!!」
影はどんどん顔を険しくしていく。
背中しか見えない完二は、同じように表情を歪めているのだろうか。
知らなかった。
みーちゃんが周りにそんな風に言われていたなんて。
だって、私の前ではいつも笑ってくれた。
笑って、しょうがねぇな、って言っていっぱいいろんなもの作ってくれた。
私はそんなみーちゃんに救われてきた。
「男らしいってなんだ?男らしいってなんなんだ?女は、怖いよなぁ…。」
「そんなことない!!!!!」
「ちょ、あずみ!?」
気づけば声を張り上げていた。
影の金色の目がギョロリとこちらに向けられ、背中にひやりと汗が流れた。
「そんなこと、ないよ。みーちゃん。」
「あれー?誰かと思えばあずみじゃん。」
あざ笑うように細められた目はまっすぐこちらに向けられていて、完二もようやくあずみの存在に気づいたようで、驚愕の色に染まっていた。
「お前、なんでここに…。」
震える足を無理矢理動かして、完二の隣に立つ。
完二は気まずそうに視線を逸らした。
ああ、嘘じゃないんだね。
君は本当に心のどこかでずっと自分を否定してきたんだ。
私、友達失格だね。
すっと息を吸い込み、影を力強く見据える。そしてあずみは語りかけた。
「私は、みーちゃんのこと一度もそんな風に思ったことないよ。だって、みーちゃんはすごいもん!私にいっぱいぬいぐるみ作ってくれた、いっぱい絵を描いてくれた!私、いっぱいみーちゃんに救われてきたんだから!みーちゃんのこと認めてくれる人、絶対いっぱいいるから。だから…!」
救いたい、そう祈りを込めて影に手を伸ばすとバチンと大きな音を立てて払われた。
「ざっ…けんな!どうせお前もそんなこと言ってボクを馬鹿にしてたんだろ!」
「そんなこと!」
「ちがう!オレはそんなこと思ってねぇ!」
「違わないさ…キミはボク…ボクはキミだよ…。分かってるだろ…?」
「違う…違う、違う!テメェみてぇのが…オレなもんかよ!!」
その瞬間、影の纏う雰囲気がガラリと変わった。
まるで奥底からふつふつと嫌な空気が溢れてくるような、そんな雰囲気。
そして、影は笑い始めた。
「ふふ…ふふうふふ…。ボクはキミ、キミさァァ!!」
「みーちゃん!!」
倒れる完二を必死に抱きとめる。
目の前には黒い影が立ちはだかっていた。
守るんだ。絶対、守るんだ!!
「みんな、構えー、クマ!」
クマの声に合わせて武器を強く握る。
そして、戦いが始まった。
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