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「みーちゃん!みーちゃん!」
「あずみ!待て!一人で行くな!」
むせ返るほどの熱気に包まれながらも、あずみの足は止まることなく動き続けていた。
防げなかった。
直前まで一緒にいたはずなのに。
眉間にシワを寄せながらも呆れたように笑う彼の顔が、頭の中に浮かんでは消える。
「私が、ちゃんと言わなかったから!」
額に汗が張り付くのもお構いなしに、先へ先へと進んでいく。
彼は、私にとって特別な存在だった。
あの頃ひとりぼっちで、苦しくて、泣いてばかりいた私にあのウサギをくれた。
別に頻繁に会ったりする仲ではなかった。
二人で遊んだりするわけでもなかった。
それでもあの頃から、彼の存在は確かに私を支えてきてくれたのだ。
今度は私が守りたかった。
守る力を手に入れたというのに。
「あずみ!あずみ!!!」
ガッ。
突然、大きな声で呼ばれて腕を強く掴まれた。前のめりに体がよろけるも、それをしっかりと力強い腕が支えていた。
「あ、なるちゃん…?」
ゆっくりと腕を視線で辿ると腕を掴んだのは、悠だった。走って追いかけてきてくれたらしく肩で息をしていて、額にも汗が滲んでいた。
「落ち着け。」
「っでも!」
「大丈夫だ。落ち着け!一人じゃ無理だ。皆で力をあわせて助けるんだ。」
「…あ。」
悠の後ろからは他の4人が息をきらしながら走ってきていた。
途端に申し訳なさが募る。
「ご、ごめんなさい。」
テレビの中の世界は本当に危険なのだと雪子が言っていたのを思い出した。ただでさえ皆に比べて経験の浅い自分は足手まといなのだ。
自分一人の勝手が、皆を危険な目に合わせてしまうかもしれないのだとやっと理解した。
「はぁ、はぁ、絶対みんなで助けるんだから!ね?」
追いついた千枝が汗をぬぐいながら、ガッツポーズを向けてくれる。
「はぁ、はぁ、橘さ、無駄に足はえーよ!一回休憩しね?そっからはもちろん本気でいくからよ。」
膝に手をつきながらも笑顔を向けてくれる陽介。
「はぁ、はぁ、はぁ…。あずみ、みんながいるから、きっと大丈夫。大丈夫、だからね。」
座り込みながらも手を優しく握ってくれる雪子。
「く、クマに任せんしゃい!ゼェ、ゼェ…うぷ、吐きそうクマ…。」
そして、先日友達になったばかりなのに明るく場を和ませてくれるクマ。
みんなの優しさで、やっと落ち着けた。
悠が教えてくれなければ、大変なことになっていたかもしれない。
「よし、じゃあちょっと休憩して出発するぞ。あずみ、いいか?」
みんなの顔を見渡してからゆっくりと悠はあずみと視線を合わせた。
その瞳が優しくて、頼もしくて。
あずみの心の奥でコトンと音がした。
「…ん〜?」
「どうかしたのか?」
今、何か…。
いつもとは違う何かを感じたけれど、それが何かはあずみにはわからなかった。
「…ん〜、なんでもない。了解でっす!リーダー!」
にひ、と笑うあずみ。
その顔にはもう焦りはなかった。
絶対に助けてみせるんだ。みんなで!
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