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その日の帰り道、皆と別れた後も鳴上は迷っていた。
そして鮫川沿いを歩いていたとき、鳴上は立ち止まって隣の菜々子と目線を合わせるように膝を折った。
「菜々子、やっぱりお兄ちゃんジュネスに戻るな。」
用があるからと言って一人ジュネスへ残ったあずみが心配だったのだ。
去り際に見せた表情がどこか不自然であることに気付いた鳴上は、ジュネスへ戻ろうと決意した。
菜々子はそれに気付いたらしく、「うん、あずみちゃんでしょ?」と言った。
「あずみちゃん、元気なかったもんね。だから、お兄ちゃん行ってきて?」
「うん。一人で帰れる?」
「大丈夫だよ。ここからなら菜々子、一人で帰れるから。」
よし、と言って頭を撫でてあげると菜々子は嬉しそうに笑って家の方向へと走っていった。
菜々子を見送った後、来た道を戻ろうと踵を返したとき珍しい人と出会った。
「こんにちは、足立さん。」
「やぁ、キミか!どうしたんだい?そんなに慌てて…。」
「いえ、ちょっとジュネスに。」
「あ、もしかしてあずみちゃん?」
目的を言い当てられたことに鳴上は驚いた顔で足立を見つめた。
「あはは…当たり?だったら多分彼女はもうジュネスにはいないと思うよ。」
「…どうしてですか?」
「さっき会って喋ったとき、もう帰るーって言ってたからね。」
あずみと似た言い方にそれが本当のことだと確信した鳴上は安心したように、肩の力を抜いた。
何もなかったのならいいんだ…
俺の思い違いだったならいいんだ…
家へ帰ろうと再び方向転換をした鳴上を笑顔で見ていた男の存在に、鳴上が気付くことはなかった。
「ん……ここ、どこ…?」
静かに動き続けていた物語が
この瞬間、ついに音をたてて
加速し始めた。
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