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その後、会話も弾み楽しい団欒の時を過ごしていたが、ある時花村が菜々子に母親の話題を出した。
菜々子は表情を崩さずに母親はいない、と言った。
その瞬間、あずみの体がピクリと動き、途端に無表情へと変わった。
手にもつ飲み物を喉に一気に流し込んでいる姿は、まるで花村達の会話を耳に入れまいとしているかのようだった。
そんなあずみの様子に気付いたのは鳴上ただ一人だった。
「…あずみ?」
何かが引っ掛かった鳴上はあずみへ声をかけた。
「ん〜?」
しかし、顔を上げて返事をした彼女はいつもと同じへラリとした笑みを浮かべていた。
「いや、何でもないよ。」
鳴上は笑顔でそう言って「ただ呼んでみただけ。」と付け加えた。
するとあずみはまたいつものように笑って、ジュースを買いにいった花村と菜々子の後を追って席を離れていった。
まさかこのあと、あんなことが起きるなんて誰も想像していなかった。
鳴上は楽しそうに笑うあずみの姿をただ見つめることしかできなかった。
この時、意地でもあずみを引き止めて理由を聞いておけば良かったんだ。
なぜ、あんな表情をしていたのか…
なにを、隠しているのか…
そうすれば、少しは違ったのかもしれない。
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