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放課後─…
やっと一日の授業が終わり、解放ムードが漂う教室であずみはネコ耳フードを揺らしながら帰り支度をしていた。
「お、ご機嫌だねぇ、あずみ!」
「んー!」
「なんか今からあんの?」
「ドラマの再放送!」
にこにこと笑うあずみに、話し掛けた千枝も釣られて笑った。
「あはは、そっか!あたし、鳴上君と花村とご飯食べに行くんだけど、あずみは無理っぽいみたいだね。」
「ん〜、ごめんね。」
「いいって、いいって!んじゃね!」
手を振る千枝にあずみも笑顔で振り返していた。
教室を出て数歩歩いた後、千枝が何気なく呟いた。
「あれ?でも、今日そんなのあったっけ?」
千枝の呟きに隣を歩いていた鳴上の肩が揺れた。
そっと教室を振り返る。
あずみのネコ耳フードは相変わらずぴょこぴょこと揺れていた。
千枝たちが見えなくなった頃、あずみはゆっくりと振っていた手を下ろした。
教室内にはあずみ一人だけ。
「…これでいいの。これで…。」
俯く顔には笑顔なんてものはなかった。
「…近付かないで、…気づかないで。…側に、来ないで。」
小さく小さく呟かれた言葉は、いつものあずみからは考えられない拒絶だった。
「だれも側にいなくていい。私はずっと独りで生きていければいいんだ。」
ガラガラ
「あ、橘さんだ!帰んないのー?」
「ん〜、帰るー!」
「あはは!やっぱ橘さん、妹みたいで可愛いわ〜。じゃ、ばいばい!」
「ん〜、ばいばーい!」
誰も、気づかなくていいんだ…。
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