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「えっとね、そんで千枝が…おろ?」

八高の生徒が登校する中、あずみと鳴上が並んで歩いていると一台の自転車が駆け抜けていった。

「はなむ〜だ!」

聞こえたあずみの声と同時にちらりと見えた赤い鞄と薄い茶髪。

その姿を目で追おうと鳴上はあずみから視線を前へと移した。

しかし、彼の目が花村を捕らえることはなかった。


ドンガラガッシャン!

そんな音に近い音をたてて、花村はゴミ置き場へと突っ込んでいた。

「ストラーイク!」

あずみの悪意のない台詞がきっと彼の心に突き刺さっているだろう。

しかも、運悪く花村はゴミバケツに体をダイブさせてしまったらしい。

ゴロゴロとゴミバケツを被ったまま地面をのたうち回っている。

「あらま。」

それを見たあずみは一言呟いて小走りに駆け寄っていった。


「だ、誰か…」

「ん〜、はなむ〜だいじょぶ?なるちゃん、助けてあげて。」

「…そうだな。」

言われるままに鳴上は花村を助け出した。



「いやー、助かったわ。ありがとな!あずみと、えっと…」

「ん〜、もしかしてはなむ〜…」

「ばっ、忘れたわけじゃねぇよ!?…そうだ、転校生だ。確か鳴上悠。俺、花村陽介。よろしくな。」

意外にも平気そうな花村に鳴上は一応、と問い掛けた。

「ケガはないか?」

一瞬だけキョトンとした花村は、すぐに笑って言った。

「へーき、へーき。」

「そそ。はなむ〜は殺しても死にまっせん!」

「うっせ、橘。」

頭をグリグリと撫でられるとあずみは楽しそうにキャッキャと笑っていた。

何とも幼い…。

そんなことを鳴上が思っていると、花村はいつの間にかこちらに向き直っていて唐突に口を開いた。

「な、昨日の事件、知ってんだろ?"女子アナがアンテナに"ってやつ!」

「ん〜、知ってる。」

「俺もだ。」

「あれ、なんかの見せしめとかかな?事故な訳ないよな、あんなの。」

「ん、私には難しくてわっかりませーん。」

花村に乱された頭を直しながら、興味なさそうにあずみは言う。

「ははは!橘はそうかもな。でもよ、わざわざ屋根の上にぶら下げるとか、マトモじゃないよな。つか、殺してる時点でマトモじゃないか。」

「ん〜、それより、時間は?」

鳴上はあずみに袖を引っ張られ、時計を確認してみた。

「!」

「やっべ、遅刻!」

どうやら花村もきづいたらしい。

「なぬ!?はなむ〜のせいだーっ!」

「悪かったよ!っておい!!」


文句を言いながらもちゃっかり花村の自転車を奪い取ったあずみは、一人ですいすいと行ってしまった。


「うっわ、可愛い顔して最悪なことしやがった…」

「まさか俺まで置いて行くなんて…」

もちろん、残された鳴上と花村は自力で学校まで走ったのだった。

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