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「郁ー!郁ー!」

可愛らしいソプラノの声が廊下に響く。

何事かと堂上が振り向くと、小柄な女がこちらへ大きく手を振っていた。

あぁ、アイツか。



咄嗟に隣を見ると、部下の笠原が緩みきった表情で手を振り返し、その後、満面の笑みで両腕を勢いよく広げた。

堂上はそれを呆れ顔でただ見つめる。

止めたって無駄なのだ。

これは最早恒例行事で、一日に一回は必ず見るハメになる。

何かと目立つ要因を持つ彼女らは揃うだけで注目を集めるというのに、毎回派手な再会シーンを繰り広げるので余計にたちが悪い。


「七恵ー!」

「郁ー!」


廊下の端から同じように両腕を広げて駆けてくるのは、雪片七恵だ。

業務部で働いていて、関東図書隊の二大アイドルの片割れだ。

二大アイドルとは、業務部で働く柴崎と雪片のことを指す。

そのどちらもが、部下の笠原の連れなのだから正直言ってとても厄介だ。

そんなことを思われているなど本人達は露知らず。楽しそうに抱き合い、キャッキャとじゃれあっていた。

170センチの笠原と152センチの雪片。

笠原の腕にすっぽりと収まり、無邪気に笑う雪片を見て、廊下を歩いていた者達が呆然と立ち尽くす。

これも毎度おなじみの光景だ。

堂上は頭を抱えて深い溜め息をついた。

「お前ら!ここは廊下だぞ!」

「あれ〜?堂上教官、もしかしてヤキモチですか〜?」

「なっ!んなわけないだろうが!」

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