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「この子に少しだけお話する時間をください!」
「ちっ!早くしろ!」
少しだけ猶予をもらい、子供の前に屈む。
これはただの自己満足かもしれないけれど、伝えずにはいられなかった。
「怖い思いをさせてごめんなさい。でも、本を読むのを辞める必要はないんだよ。これからも好きな本をいーっぱい読んでね。」
優しく頭を撫でると、子供は泣きそうな顔で頷く。
後ろで過激派の男が急かしている声を聞きながら、もう一度子供に笑いかけるとゆっくりと腰をあげた。
覚悟はできた。
お守りは、ないけれど。
他にきっと方法がある。
手首を紐で縛られ、後ろから歩けとつつかれる。
「おら!さっさと乗れ!」
「い、痛いですー!乗ります!乗りますから!」
「お姉ちゃん!!」
「え…?」
今まさに車に乗り込もうとした瞬間、あの子供が走ってきた。
慌てて乗りかかっていた足をおろした。
「だ、ダメだよ!危ないよ!」
「これ!お姉ちゃんのお守り!」
「それ…!!」
それは、堂上さんのお守り。
「信じて待っとけって!」
その台詞は…。まさか。
「うるせーぞガキ!いい加減にしねーと、」
「やめてください。私は大人しくついて行くかわりに暴力は振るわないでくださいとお願いしました。」
「ちっ。わーったよ。さっさと乗れ!」
乗る直前に少しだけ周りを見渡す。
視界の隅。目立たない所に、紺と白の特徴的な制服を捉えた。
特殊部隊用の制服が誰よりも似合うと思う黒髪のあの人が、肩で大きく息をしながら此方を見ていた。
強い眼差しで此方を。
待ってます。
貴方を、そして、皆を信じて。
車に乗る直前に目隠しをされる。
お守りの存在を手で確かめながら、パキリと音がなるまで握りしめた。
つづく
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