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「おら!さっさと乗れ!」

「い、痛いですー!乗ります!乗りますから!」


一体全体、どうしてこんなことになってしまったんだろう。

強すぎる力に抵抗する術もなく、容赦のない締め付けに手首が悲鳴をあげるのを聞きながら七恵はそんなことを思った。


確か今日はオフの日で、買い物をしようと街に出た。郁は訓練で、麻子は気になるニュースがあるからって一緒には来てくれなかったんだっけ。

一人で回るのもなんだか寂しいかなと思って、ある程度時間をつぶし、本屋に立ち寄ったらすぐに帰るつもりでいた。

そこで遭遇してしまったんだ。


それは突然、前触れもなく訪れた。


「本は全て捨てろー!抵抗するやつはどうなるか知らんぞー!!」

「え…?」

怒鳴り声と共にその本屋のドアが荒々しく開かれる音が聞こえた。

最初はただの検閲かと思ったんだ。
悔しいけれど今の自分には本を守ることはできない。
歯痒さと憤りを隠す様に、自分自身も本棚の影に隠れた。

けれど、小さなどよめきと子供達の怯える声が入口方面から聞こえたから、咄嗟に隙間から覗いてしまったんだ。

七恵は目を疑った。
バットや、鉄パイプ等の鈍器を持ったその姿は良化隊の者ではなかったから。

ああ、麻子が見てたニュース、どんなのだったっけ?


「今、メディア良化法に賛同する過激派一派が暴徒化してるんだって。さすがに手口が荒っぽいから警察も動いてるみたい。七恵も気をつけなね。」


もしかしなくても、これだよね!?


サッと血の気が引き、咄嗟にもう一度本棚へ隠れた。


手口が荒っぽいって具体的にどういうことなの?
もっと詳しく聞いておくんだった。
それよりも、こんなことになるなら大人しく麻子の側にいれば良かったと激しく後悔。
もう遅いけど!


彼らは良化隊とは違い無差別に本を取り上げていく。

小さな子供から、お年寄りまで。
一人の子供が抱えた本を離さない。あの子は、本を守ろうとしてるんだね。

子供の泣き叫ぶ声がする。
お年寄りの倒れる音がする。

ダメだよ、そんなの…。

過激派の男が手を振り上げている。
標的は、子供だった。

「ぴーぴー、うるせーんだよ!てめぇが本を渡せねーから痛い目見るんだ!」


確かに、私には何もできない。
堂上さんや郁みたいにこの捨てられていく本達を助けることも、あの人達に抵抗する術もない。

でも、気づいた。
本を守ることだけが全てじゃないんだよ私!
だって、それよりも守るべきものがあるじゃない。


気づいたら、もう体が動いていた。




「やめてください!!暴力は、やめてください!」


あの子を守らなきゃ!





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