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かと言って、二人の仲が進展しているわけでもなかった。


「はい、ありがとうございます!じゃあ、行ってきまーす!」

鼻をすする集団に紛れて走っていく七恵を手を降って姿が見えなくなるまで見送る。



「あれ?柴崎?」

するとそこへ、入れ替わりになるよう に柴崎が前方からやってきた。

口元が面白そうににまにまと緩んでいるから、また影からこのやり取りを見ていたのだろう。

「ふふ!あー、面白い!」

「何が?」

「何がって、もちろん…ふふふ!」


そう言う柴崎の目線は、堂上一直線。

視線の意味に相手も気づいているのか、居心地が悪そうにしていた。


「ほんっと天然ですよねー、七恵。全然、気づかないんだから!でも、いつまでこんなこと続けるんですか?下手したらあと一年はこのままですよー?」

「う…うるさい!」

「ま、図書館員全員の注目の的じゃあ、そりゃあ行動しにくいでしょうけど。」

気の毒そうな声色とは別に柴崎の顔は緩んだままだ。


発破をかけるような物言いは、堂上の胸に突き刺さったらしい。


堂上はあちこちに視線を彷徨わせ、やがて気持ちが決まったように真っ直ぐ柴崎を射抜いた。

「あいつには、散々辛い思いをさせたのはわかってる。だから、今度は俺が行動を起こす番だっていうのもわかってるつもりだ。」


そう言って背を向ける堂上の背中は、ピンと張っていて。

柴崎もまさかそんなことを言われるとは思っていなかったらしく、目を丸くしていた。


「ちょ、ちょっと柴崎。いくらなんでも言いすぎたんじゃない?」

「…もう。あんた本当に馬鹿ね!やっと堂上教官が本気で宣戦布告してきたんじゃない!むしろ良いことよ。あたしの挑発がやっと効いたかしら。」

「え〜…。」

「仕事に関しては文句無しだけど、恋愛面ではちょっと頼りないと思ってたのよね。でも、ちょっと今回見直しちゃったかも!」

「え、あ!柴崎!」


笠原が呼び止める声も虚しく、鼻歌を歌いながら去っていく柴崎はとても上機嫌だった。



「可愛い可愛い七恵の為ですもの。」


ふふふ、と笑う柴崎は一体、何を企んでいるのか。


それがわかるのは、それから一週間後のことだった。




つづく

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