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あの一件以来、日常が変わった。


「郁ー!いーくー!」


今日も廊下を歩いていると、可愛らしいソプラノの声が後ろから聞こえた。

これはもう条件反射といっていいんじゃないかと思うくらいのスピードで私は足を止めて、振り返っていた。

すると、すれ違う人波も一斉に自分と同じ方向へ顔を向ける。


「七恵!今日も元気だねー!」

「えへへー!郁に会えたから午後も頑張るねー!」

ここまでは今までと変わらない光景。


「…んんっ!ゴホン。」

変わったのはここからだ。

態とらしく咳をして存在を主張したのは、上司であり、ある意味ライバルでもある堂上教官だ。

実は最初からとなりにいました。


変わった、というのも今までは自分から存在を主張することなんてなかったし、ましてやこんな顔で七恵を見つめるなんてことはしなかった。

ちなみにこんな顔、というのは少し恥じらいながらも何かを期待しているような顔だ。

少し、腹立たしい。


そんな変化を知ってか知らずか、七恵は今日も華やかに笑って言う。

「堂上さん!今日も素敵ですね!大好きです!」

「…あ、ああ。ありがとう。その、午後も気をつけて励めよ。」


そして、彼女をあしらわなくなった。

これが一番の大きな変化といっていいだろう。

その場に流れる少し甘い空気に、周りで黙って眺めていた人達が一斉に鼻をすすり始めた。

あー、そうだよねー。
アイドルだもんねー。

かく言う私も少しさみしい。



そんなわけで、彼と彼女の間の流れる空気が良い方向に流れ始めたのは、間違いないようだった。


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