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「さてと、お姫様はどうしたんだろうねぇ、堂上教官?」

七恵がいなくなった後、手塚と笠原は慌ててどこかへ出て行き、その場にいるのは小牧と堂上だけになった。第一声を発したのは、小牧だった。

目元だけ楽しげに細められ、その視線は先ほど七恵を呼び止めた人物へと注がれていた。態とらしく、先ほどの言葉を真似ながら。


「なんのことだ。」

「とぼけても無駄だよ。堂上だって気付いてた筈だよ。雪片さんの異変に。」

そう言われて、堂上は静かに目を伏せた。



今日一日、姿が見えなかった。
どこかしらにいれば彼女は目立つからすぐにわかる。
人が集まっていて何事かと覗けば中心にいたり、真面目に業務をしていたり、此方に気づいて手を振ってきたり。
いつしか彼女を探す癖もついてしまっていた。
それが今日はどうしたことか。
業務が始まっても、昼になっても、夕方になっても姿が見当たらなかった。

ようやく業務が終了して、笠原に尋ねようとしたところに、彼女はやっとやってきた。

正直、姿を見れてホッとしたし、やっと会えた事に嬉しさも感じた。
何かあったのではないかと心配していたんだ。
それ程までに彼女は自分の中で大きな存在になってきているのに少し驚いた程だ。

いつものように笠原に抱きつく。
その後に起こるであろう事に少し身構えた。だってそれが日常だったから。


ところが。
彼女の目が俺を捉える事はなかった。



自分抜きでの日常の会話に酷く狼狽えた。

仲良さげに語らう手塚と小牧が、羨ましかった。





「堂上。いい加減、認めてもいいんじゃないか?」

「認める?何をだ。」

声が少し掠れた。

「その想いを、だよ。」


思い…。想い…?俺の?


「堅物すぎる君に、もう一つアドバイスだ。」

「手遅れになる前に、行ってきなよ。」


ガタン!!
突然立ち上がったため机が少し大きな音を立てた。
小牧は驚いた様子もなく楽しそうに口元を緩ませて、こちらを見ていた。

「すまない。…後は、頼む。」

机には幾つかの業務報告書。
小牧はそれを静かにとり、自分のデスクへと持ち帰った。



「行ってらっしゃい。」





つづく

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