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いつもならば笠原に抱きついた後にすぐ堂上の元へ行き、愛の言葉をかける。それがどんな状況、場所でも。
そこまでがいつもの風景であり、日常であった。


それが今日はどうだろう。
これまで堂上教官と話すどころか、目も合わせていない気がする。

その証拠に堂上教官も少し狼狽えているのが見てとれた。



本当に、諦めてしまうんだね…。



それもこれも全部、この堅物のせいだ!


キッと隣の上官を見下ろす。
すると、タイミングが良いのか悪いのか堂上もこちらを見上げた。


「…おい、なんだその目は。」

「べっつにぃー!なんでもないですよーだ!」

「お前っ!上官に対してその言葉遣いはなんだ!」

「ちょ!今そういことで言い争ってる場合じゃないでしょー!?」

「アホか貴様!意味のわからんことを理由にするな!」



ギャアギャア、ギャアギャアと。


「あーあ。また始まった。」

言い争いの始まった二人を小牧はクスクスと笑いながら見つめる。それを七恵は曖昧に笑って受け流した。


ああ、郁が羨ましいなぁ。
私はどんなに頑張ってもそんな風に言い合いをしたこともないし、目を見つめてもらったこともない。
諦めると決めたものの、長い間大切にしてきたこの気持ちをどこにしまえばいいか、私はまだ分からずにいた。

さらに、今までの私は堂上さんに自分を見てもらいたくて毎日頑張っていたから、今更普通に接するということがどうすればいいかなんてわからなかったし、考えたこともなかった。

どうすれば良いんだろう。
無視…をしてしまうと、不快にさせてしまうだろうからそれだけは避けたい。

考えに考え、私は足を動かした。



「じゃあ、私そろそろ行きますね!この後ちょっと用事があるので。」

「あ、ちょっと七恵!?用事って…」

「お食事に誘われたの。前からずっと誘ってくれてた人だったから、根負けしちゃった。」


そこで笠原はハッとした。

思い出した!!!!
あの倉庫で手塚と話をしていた時、そこに居合わせたあの業務部の男。
あれは確か七恵のファンクラブの人で何度も何度も七恵に言いよっていた男だ。
そうか…聞かれていたんだ。


「それじゃあ、お先に失礼します!」

「あ、おい雪片!」

引きとめようと笠原が口を開けた瞬間、別の声にそれは遮られた。

「え?あ、なんでしょう?堂上教官。」

まさか呼び止められるとは思っていなかったのだろう。
いや、笠原達でさえ驚いていた。


「あ、いや…その…なんでもない…。」

「…?そうですか。あ、光くん続きよろしくね!小牧教官、堂上教官もお疲れ様でした。じゃあね、郁!」

「あ…うん。あ!行き先だけはメールしてよー!!」

「はーい!!」

離れていく背中にそう声をかけるしか、もう笠原にできることはなかった。

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