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「あ、郁ー!お疲れ様ー!」


当の本人はと言えば、こちらの思いなんて露知らず。

元気に、いつものあの可愛らしい声でこちらにかけてくる。


え?今、堂上教官の近くにいたらヤバイんじゃ?
仲がこじれそうじゃない?

視界の隅で手塚も心なしか焦ったような表情をしている。

こ、ここは七恵を追い払わねば!


しかし、長く続く習慣をこの一瞬だけ無視する、なんて小難しいことが笠原にできるはずもなく。

ハッとした時には既に遅く、小さな彼女はいつものように自分の腕へとすっぽり収まっていた。ちゃっかり自分も腕を広げていた気がする。


あ…。


「…うううう!!やっぱ可愛いなー七恵は!!!」

ちょっと離れた所に立つ手塚から、お前やっぱ馬鹿だな、なんて呟きが聞こえた気がする。
いや、これは…うん…しょうがない。


えへへー、嬉しいなー!なんて笑う七恵と愛でる笠原。
その様子を見て、いつものように肩を震わせている小牧教官。そして、その横で飽きれながらも優しい目をした堂上教官。


あれ?案外いつも通り?


特にいつもと変わる様子のない風景だが、笠原は違和感を感じていた。

「皆さんも、お疲れ様です!さっきそこで差し入れ頂いたんです。良かったらコーヒーのお供にしてやってください!」

「あ、光くん!今日教えてもらった本、もう半分読んじゃった!凄く面白いね!続き、貸してくれる?」

「小牧教官、この間おっしゃってたハーブティーが飲めるカフェの場所がやっぱりわからなくて…。」


おかしい。何かがおかしい。
落ち着け笠原、よく考えるんだ。
何がおかしい?
何がいつもと違う?


部屋中に目を配り、違和感を探す。すると、その正体はすぐに判明した。

小牧教官に地図を書いてもらいながら楽しそうに笑う七恵を見つめる視線。

そうか、堂上教官だ。

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