お誕生日おめでとう

※恋仲

「白子さん、お誕生日おめでとうございます。」
「……え?」
「……え、今日、ですよね?」

唐突に言われた台詞に思考が停止する。
誕生日……俺の?今日は何日だったかと思い出していると側に座る桜子の顔が青ざめていくのが見えた。いや、ごめん。ちょっと待って、そんな顔させたいわけじゃないんだ。少しだけ平和ボケしていたこの頭を整理する時間が欲しい。
そういえば朝から三兄弟がやけに俺を探していた気がする。別に緊急事態でもなさそうだから彼女との逢引を優先したんだが、成る程。色々と合点がいった。

彼女が珍しく日付を指定してきたのも、三兄弟が朝から俺を探していたのも、四月一日。俺の誕生日が理由か。

「……白子さん?」
「ごめん、今日が何日か忘れてて。うん、今日が誕生日だ。」
「白子さんって、結構自分に関することはぼーっとしてますよね。間違ってるのかと焦りました。
改めて、おめでとうございます。これ、私なりの贈り物です。」

ほっとした様子の彼女が取り出した風呂敷に綺麗に包まれた小さな箱。緩みそうになる自分の顔面にぎゅっと力を込めて、その贈り物を受け取った。ああ、どうしよう。贈り物を貰えたことも勿論だが、それ以上に彼女が俺なんかを祝ってくれている。それがどうしようもなく嬉しい。

贈り物を片手にふわりと笑いかけてくれる桜子を抱きしめれば、珍しく抵抗もしないで俺の背に細くて小さな腕が回される。首筋に顔を埋めると耳元で「くすぐったい」とくすくす笑う声がした。どうしよう、可愛い。

「ありがとう、嬉しいよ。」
「甘味なんです。早めに食べてくださいね。」
「……まさか、桜子の手作り?」
「はい。本当は形に残る物を贈りたかったんですが、やっぱり忍者にそういった私物は駄目なのかなぁと思いまして。だから白子さんの好きな甘味を心込めて作らせていただきました。」
「どうしよう、食べたくない。」
「!?す、すみません。邪魔なら持って帰り」
「そうじゃないよ。」

はぁーっと深く息を吐く。吐いた息が首筋にかかったらしい。びくりと身体を揺らす桜子はこちらの気など知りもしないだろう。いま俺がどれ程幸せなのか、知る由もない。きっと彼女にとって、この祝うという行為は当たり前のことなのだから。

「桜子が俺のために気持ちを込めて作ってくれたんだろ?食べるのがもったいないな。できることならずっと部屋に飾っておきたい。」
「それは……腐るのでやめてください。」
「うん、大切に食べさせてもらうよ。ありがとう。」

彼女の首筋から顔を離して、抑えきれなくなった笑みを漏らす。きっと顔はだらしないことになってるだろうけど、ここにいるのは彼女だけだしまあいいか。この喜びを心の内に押し留める方が失礼な気がする。

「白子さん白子さん。」
「ん?」

じっと目を見つめてきた彼女は愛おしげに笑う。その笑顔がとても眩しい。

「生まれてきてくれてありがとう。あなたと出会えて、あなたに選ばれて、私すごく幸せです。」

とどめとばかりに贈られた口付け。照れ臭そうに笑う桜子。こいつは俺をどうしたいんだ!生憎、あの長男と三男のように全身で喜びを表せるほど俺は器用じゃない。このこそばゆい気持ちをどうすればいいのかも分からない。でも、本当に、本当に嬉しいんだ。金城白子を抜きにしても泣き出したいほど嬉しいのに、それを表現できない自分が憎い。

「桜子」

だからせめて、態度で示させて。

「ありがとう。俺も、すごく幸せだ。言葉じゃ言い表せないくらい、幸せだよ。」

苦しくない程度に力を込めて細い身体を抱きしめる。愛おしい愛おしい愛おしい愛おしい。激しく動く心臓がどうにかなってしまいそうだ。「ありがとう」何度言っても足りない言葉を呟くと、桜子は満足そうに笑った。

(俺の方こそ、出会ってくれてありがとう。愛してるよ、桜子)

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