咲き誇る二輪の花

京都、犲本拠地。
生活に必要な施設も整っていれば、軍隊の活動拠点ともなっている基地だ。政府直轄であるその拠点は、戦闘に参加しない雑務員でさえも軍人で形成されていた。

***

「はいはーい、退いてください。箒が通りますよー」

軍服の中に紛れる薄紅色。忙しなく動く小さな身体に、軍人たちの表情は自然と柔らかなものになる。

「おはようございます、桜子さん!」
「おはようございます。洗濯物があれば出しておいてくださいね」
「桜子さん、服に穴が開いてしまったんですが」
「洗濯物カゴの横に小さなカゴがありますから、そこに出しておいてください」

桜子はこの洋館の掃除を一任する唯一の女中だ。
随分と前から働いている彼女は軍人たちからの信頼も厚い。彼らにとって桜子は母親のような存在でもあり、妹のようなものでもあった。

「おはよう、桜子」

また先程の男たちとは違った軍服を着た女性が現れる。その女性を見た桜子はパッと顔を輝かせる。
右大臣直属部隊 犲に所属する幼馴染。彼女の着こなす軍服は軍服ではないみたいにオシャレだ。
自分にはないものを沢山持っている彼女に桜子はずっと憧れている。

「おはよう、妃子。なんだか久々に会った気がする」
「あなた、二日間休みだったものね。私たちは昨日、捕り物に行っていたし」
「じゃあ三日ぶりだ」

彼女たちの周りに花が咲き誇る。
軍人たちにとって彼女たちはオアシスだった。むさ苦しい男だらけの中に咲き誇る二輪の花。

胸は男のロマンである。軍服の上からでも分かるナイスバディ。頼り甲斐のある優しい大人の女性、妃子派。
様々な箇所が小さいがそこがいい。温かい雰囲気でみんなを癒す。護ってあげたくなる女性、桜子派。
この二つの派閥は決着がつくことなく長らく均衡状態が続いている。

「休みといえば、桜子と遊びにいったのはいつだったかしら。また二人でどこかに行きたいわね」
「この辺に美味しい甘味処が出来たんだって。休みがとれたら一緒に行こう。女二人水入らずで」
「賛成。あとこの前の巡回中、薄紅色の髪飾りを見かけたの。今度見にいきましょう。きっとあなたの髪の色によく合うわ」
「妃子の見立ては間違いないから楽しみ」

まず普通の軍隊では聞くことがないであろう女性の会話。男たちは一目それを見ようと集まってくる。いつの間にか、彼女たちの周りには軽く人だかりができていた。

「佐々木」

モーゼの海割りさながら、その人だかりが一人の人物を中心に割れていく。妃子はその人物の声を聞いた瞬間、佇まいを正した。もはや反射の域に達している。

「隊長。おはようございます」
「おはよう、蒼世」
「ああ、おはよう。そろそろ朝礼を始める。他の隊員は全員揃っているそうだ。俺たちも行くぞ」
「はい。じゃあまたね、桜子」
「うん、頑張ってね」

さあ仕事仕事。
二人を見送り、箒を握りしめる。掃除に洗濯に雑草抜きに調理の補助。雑務員でもやることは山ほどある。
繁多な一日が今日も始まる。

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